カカイル2
□なよたけ
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「……夢、か……」
昔から繰り返し見続けている夢から覚めたカカシは薄暗い自室の寝台の上で見開いていた目を再び閉じ、長く深く息を吐き出して呼吸を整える。
これは、夢。
ただの夢。
見る間に月まで届くほど伸びる竹だとか、その竹を登って月まで歩いて行くだとかあり得る筈がない。
ましてや月にたどり着いた途端、自分は子供に戻っていて、そこに居た何者かを迎えに行っているなんて馬鹿げてる。
なにより。
「……あの人が、あんな場所に居た筈がない……」
そう言い聞かせてみるけれど、焦燥感は増すばかり。
再度深呼吸をし、月明かりの差し込む窓から顔を背けるように寝返り、布団へと潜り込んだ。
とても眠れそうになどないが、月を見ないよう目を閉じる。
明日は寝不足を覚悟しなければならないが、また同じ夢を見るよりずっとマシだと考えた。
ずっと眠らずには居られないから一時凌ぎでしかないと解っていても、今は目を逸らして月から逃れたい。
それにきっと、明日もあの人とは顔を合わせる筈だ。
「……なんで、あの人が……」
出会ったこともない時分から見ていた夢に出てくるのか。
それも、大分実体とは違うが大人の───多分、今頃の年齢くらいだろう───姿で。
最初は、他人の空似かと考えた。
偶々、長年見続けた夢に登場する人物と似ている人なのだろう、と。
しかし、ただの偶然というには余りにも同じと感じる所が多過ぎた。
例えば、穏やかな声が。
例えば、温かな手が。
例えば、朗らかな笑顔が。
そして、鼻筋を跨ぐ傷痕が。
「……イルカ先生……な、ワケ……ないのに、ねぇ……」
忍として───同じ部隊に配属された上官と部下として、初めて彼───うみのイルカと出会ったのは、ずいぶん前になる。
夢の中で会う人物と余りにも似ていたからカカシも酷く動揺した。
流石に周囲から悟られぬよう咄嗟に押し隠し、任務前の確認だったり休息時の雑談に紛れて彼の生い立ちを聞き出した事は覚えている。
うみのイルカは両親とも忍で、九尾事件で1度に家族を亡くしたのだという。
孤児となってからは3代目火影に目をかけて貰ったらしい。
向上心はあるようだが然程優秀ではないと自覚していて、それでも里の役に立ちたい気持ちからいずれは忍者を育成するアカデミー教師になりたいと考えているようだ。
それと、鼻筋を跨ぐ傷はいつ、どんな状況で付いた物か覚えていないということも知れた。
任務を終えて里に戻ってからも行き会えば挨拶を交わす程度の交友を持ち続けたのは、興味本位だったと否めない。
子供の頃は月に居る人の夢を楽しみにしていた記憶があって、その人に似ていたからというのは最初だけ。
月に居る人は子供だったカカシからすれば寂しげな雰囲気の落ち着きある大人だったけれど、成長したカカシが出会った生身のイルカはまだ少年期の甘さから抜け切れていない若造で余裕の無さすらも好ましく思える青年だった。
そんな2人の違いが面白く、全くの別人としてカカシの中での認識が落ち着いた頃、関係が変わる事となる。
教師となったイルカの教え子をカカシが引継ぎ、今までより言葉を交わす機会が増えたのだ。
年齢差や階級差を気にせず酒食を共にする事もあったし、互いの見解の相違に場所も立場も弁えず口論となった事さえある。
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