カカイル2
□先生は女中様
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気圧されてしまったカカシなど、旦那様より若様とか坊っちゃまとでも呼びそうだ。
「食欲がないのでしたら、雑炊にでもしましょうか? それとも、お茶をお持ちしますか?」
「……あー。お茶、お願いします」
「はい。ただいま、お持ちします」
丁寧な物腰で一礼したイルカは台所へと下がり、カカシは決まり悪げに用意された席に腰を下ろした。
本来なら喜ぶべき事態のはずなのに、ため息しか出てこない。
「……あれって、怒ってるんだろうねえ。やっぱり……」
こうなった経緯───つまりは原因が自身の言動であるだけに、悩ましげなため息を零しながら、カカシは数日前にイルカと交わした会話を思い出す。
* * * * * 9月になったばかりの事だ。
里を2、3日離れる任務を目前に同棲中の恋人へ帰還予定日を告げた時、カカシの誕生日も近かったからだろう。
2人の休みが合わせられそうだから、ささやかながらお祝いをしたいとの提案に照れ臭さを感じながらも喜んで了承した。
そこでイルカが料理の希望なり、して欲しい事なりないか、と聞いてきた。
「んー。あ、そうだ。どうせだし、ちぃっとお願いしたいことがあるんですけど?」
そう言って下心丸出しの望みを耳打ちしたカカシに、イルカは顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「……なっ、なんで、そんな事せにゃならんのですかっ!?」
「えー。いーじゃないですかっ、女装くらい。だいたい、任務だったらやるデショ?」
「そりゃ、必要なら女体変化だろうが色仕掛けだろうがやりますよっ! でも、それと、これとは、別ですっ!!」
「なんでよー? 恋人のささやかなお願いじゃないですかー」
「……だ、たからって、なんで、女給なんですかっ!? 女中ならまだしも、女給ってっ!」
カカシが耳打ちしたのは「その日一日、女給姿でお仕えしてよ」という願い。
実のところ、カカシとイルカのお付き合いが始まったのは我ながら痛々しいアプローチから。
「だって、最初はオレがイルカ先生にご奉仕したデショ? そのお返しと思ってー」
笑って引き合いにしているものの、あの時にやらかしたアレコレはカカシにとって人生最大の黒歴史である。
なにしろ、さほど親しくもない知人という関係でしかなかった好いた相手の誕生日に朝っぱらから自宅に忍び込んだのだから。
それだけでなく、なんの嫌がらせかメイド姿で甲斐甲斐しく世話を焼き、留守番ついでに男やもめに溜まった家事を片付けて手料理で誕生日を祝うだけで終わらず、辛抱堪らず襲ってしまった。
諸々一切尽く、肝心な相手の気持ちを無視しておいて、全てのコトが終わってから土下座しての謝罪と共に手遅れの告白をぶちかましたのである。
その後、紆余曲折のお付き合いを経て、現状は同棲にまでこぎ着けた経緯はともかく、イルカが絆されてくれた理由はカカシにすら謎のままだ。
唯一分かっているのは、当時の己は思い詰め過ぎて頭のネジが吹っ飛んでいたことだけ。
今更ながら、反省はしている。
してはいるが、自分が好き好き言うばかりで愛されている実感が希薄なのも事実。
二人きりでいてもあまり甘い雰囲気になってくれない恋人へ意趣返しをしたくなっても仕方がないのではないか、と脳内で自己弁護。
折良く、誕生日になにかして欲しい事はないか、と尋ねてきたイルカに提案したのだ。
───女給姿で一日ご奉仕してよ
write by kaeruco。
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