カカイル2

□ある夏の夜に
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ある夏の夜に
〜 In One summer night 〜

猫だるま = iscreamman 相互リンク



 まだ残照の残る宵の空を見上げれば、星は秋の配置に近付いている。
 暑さの盛りは過ぎたハズだが陽が沈んだばかりでは気温も湿度も下がる気配もなく、全身を隙なく覆い隠した忍装束をまとうカカシは蒸し暑さに辟易とため息を吐いた。
 それでも唯一晒された右目辺りに汗を滲ませることも無く、歩を進めていく。

 単独の任務で十日程カカシは里を離れていた。
 取り立てて変わった様子のない事に安堵する。
 まずは報告書を提出しなければならないが、気掛かりなのは今夜の受付に彼がいるかどうかだ。
 もし居るのなら彼に報告書を渡して労いの言葉を聞きたいし、退勤時間ならば食事に誘えるかもしれない。
 
 そんな事を考えながらカカシが大門へと足早に向かっていると、向かいから親子連れと思しき二人組が歩いて来ているのに気付いた。
 夜目にも遠目にも目立つ、長く伸ばした白銀の髪をなびかせた痩身の男の後を、同じ髪色ながら伸び放題に逆立てて前髪だけ額当てで目にかからないようにした子供が追い掛けていく。
 二人共に足運びは静かで、相当な手練れと感じた。

 それ程の者ならカカシが知らないハズもないのだが、どういうワケだかぼんやりと見覚えがあるという記憶だけで名前が出てこない。

 困惑したまますれ違う手前で軽く会釈をすれば、同じく会釈と穏やかな微笑みで礼を返された。
 子供の方はぶっきら棒に視線を逸らしただけで、父親であろう忍を追い掛ける。

 その姿がまるで幼い頃の自分と重なり、怒りよりも懐かしさと決まり悪さが勝った。
 あの子供は馬鹿にされたと思うだろうが、口元に浮かぶ笑いは抑えようもない。

 そこで不意に思い出して、足が止まった。

 あの人は、はたけサクモじゃないか。
 木ノ葉の白い牙と謳われる優れた忍で、幼い頃から憧れ目標としていた人だった。
 何故忘れていたのかと考えるより先に、慌てて振り返って気付く。

「……そんなこと……ある、ハズが、ない……」

 はたけサクモはもう20年以上前に亡くなった、カカシの父親だ。
 それに彼の後を追い掛けていた子供は、間違いなくかつてのカカシ自身。

 振り返っても、二人の姿はどこにもない。
 普段と代わり映えしない、里へと続く道があるだけ。

「……なんで……」

 こんな事があるのだろうか。
 もう存在しない人やかつての自分とすれ違うなんて。

 首を傾げて訝しみつつ、またカカシは里へと歩き出す。
 ゆっくり、一歩を踏みしめて。
 すれ違い様に耳が拾った懐かしい父の声を反芻しながら。

───カカシ、ゆっくりでいい

 その所為だろうか、とても心が、足取りが、軽い。
 そして誰か───いや、イルカに会いたいと思う。
 歩みはゆったりと、だが抑え難い急く気持ちを抱えたカカシは大門を通り、里へと戻った。
 まっすぐ任務受付へ向かうカカシの横を、ざんばらな黒髪を高く結い上げた男の子が駆け抜けて行く。

「お帰り!」
 
 
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