カカイル2
□ある夏の夜に
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ある夏の夜に
〜 In One summer night 〜
猫だるま = iscreamman 相互リンク【没稿】 夏も盛りを過ぎて木ノ葉隠れの里も忍者アカデミーは長期夏季休講の半ば、校舎には子供たちの影もなく静まり返っている。
けれど教師には常と変わらず授業以外の仕事があり、更に普段は疎かになりがちな鍛錬を積んだり実戦の勘を取り戻すべく任務にでたりと忙しい。
それでも合間を見つけてそれぞれ休暇も取るので、教員室に詰める人数は少ない。
うみのイルカも鍛錬を兼ねた数日の里外任務から昨日戻ったばかりだ。
不在の間に滞った書類は今日一日では捌き切れず、ようやく締切間近な物にだけ目処がついたところで凝り固まった肩を解す為に伸びをする。
いつの間にか窓の外は濃い夕闇が広がっていて、不可思議な色合いを見せる黄昏時の空は夏も終わりのせいか見る間に暗さを増していく。
「……もう、こんな時間か……」
少し早めに上がるつもりでいたのにと独り言ち、手早く書類と筆記具を片付ける。
短期とは言え任務で不在にしていた自宅には備蓄食料しかないのだが、うっかり米を切らしていた。
今夜は何か買い込んで帰らねば、明日の朝食は任務で残った非常食い扶持である。
まだ手付かずの書類に急ぎの物が紛れていないかだけを確認し、鞄を肩に席を立とうとしたイルカへタイミング良く見回りから戻った同僚が声をかけてきた。
「あら、イルカ先生。お帰りですか?」
「ええ、商店が店じまいする前にと思いまして。それじゃ、お先に失礼します」
「ふふ、お互い独り身では大変ですものね。お疲れ様」
居残って仕事をする同僚より先に帰宅する申し訳なさから逃げ出すように足早に、けれど忍らしく足音を潜めて教員室を後にする。
職員用玄関を出ると遠く山の端だけがわずかに赤が残り、空はすっかり暗くなっていた。
アカデミーの玄関から正門まで灯りはなく、木ノ葉隠れの里と呼ばれるに相応しく多くの樹木が生い茂るせいでより闇が深い気がする。
だが門の外に続く繁華街の賑わいは明るく、夜目も利くイルカが歩くのに不自由はない。
馴染みの商店街へと足を向けながら、イルカは空っぽの冷蔵庫と食料棚を思い返す。
肉や魚や葉物野菜といった生鮮食品は元より、日持ちする根菜や粉物まで底をついていたはずだ。
すでに軒をたたんだ商店もあるだろうから考えついた全ては揃わないにしても、せめて最低限の買い物は済ませたい。
「とりあえず、米は絶対だ。でも重いから最後に買うとして……あとは適当に見繕うとしても……」
さて、どこの商店ならまだ開いているか。
心中で呟きながら、背後から足早に歩いて来る親子連れに道を譲る。
軽く会釈をしつつもお互いの姿を確認してしまうのは忍としての習い性だ。
急いでいるし身に付けた装備を見れば任務なのだろうが、こんな時間からしかも親子連れとは珍しい。
父親らしき忍の後を必死に追い掛ける子供はようやくアカデミーに通い出すくらいの年頃で、教員生活も長くなったイルカには見覚えがある。
なのに名前が出てこないばかりか、その子供が額当てまで締めているから驚いた。
write by kaeruco。
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