カカイル2

□桂男
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桂男
〜 LUNATIC LOVE 〜

〜 10周年お礼:新作(シリアス) 〜



 雲一つない暗色の空に禍々しく輝いた満月の下、カカシは夜を歩く。
 今宵の月を待ち侘びて、夜毎空を眺めていた人の元へ。

「こんばんは、イルカ先生」

「……こんばんは、カカシさん」

 いつもの如く庭木の枝から声を掛ければ、昼間出会った時とは別人かと思う姿でイルカは窓辺に座っていた。
 普段は高くきっちりと結い上げている髪は洗ったのか湿ったままざんばらに下ろし、いつもは寝間着すら忍服なのに婀娜っほく羽織って帯を締めただけの浴衣で片膝立てている。

 目のやり場に困って言葉も失い、頬を染めて目を逸らすカカシなど御構い無しに、ゆるりと口の端だけで笑ったイルカは愉快そうな声で揶揄してきた。
 
「……桂男かと、思いました……」

「それ、褒めてませんよね?」

 言われたカカシは心底嫌そうに息を吐く。

 桂男───かつらおとこ───とは、古くから言い伝えられている月に住まう絶世の美男子とされる妖怪だ。

「……あなたが素顔晒して歓楽街辺りを歩けば、太夫達が挙ってそんな噂をしそうじゃないですか……」

 滅多にいない顔も遊び方も金払いも良い上客を月に住まう人に擬えて、花街の遊女達からそう呼ばれるだろうとイルカは嘯く。
 多分、イルカは単純に考えたまま口にし、遠回しにカカシの容貌を褒めた事に気付いていない。

 けれど、カカシとしても手離しには喜べない理由がある。
 桂男という妖怪の性質もだが、忍としては味方にそう疑われるのは致命的だと知っているからだ。

 なにしろ妖怪としての桂男は月を見上げる者の所へ降り立ち、魅了したその魂を連れ去ると言われている。
 言わば死神のようなものなのだ。

 そんな伝説があるからか、同じ名の忍術がある。
 まだ敵対していない他国へ無関係の人間として入り込んで生活し、いざという時に敵陣の内側で工作することを《桂男───かつらお、またはけいなん───の術》という。
 例えば、大蛇丸や暁によって幼少時に送り込まれ、稀有な医療忍術の才能と暗部すら手玉に取る実力を有しながら、木ノ葉崩しという時が来るまで一介の下忍として振る舞っていた薬師カブトのような。

 その事を中忍であり、アカデミー教師であるイルカが知らぬはずがない。

「……オレをスパイだって言ってるようなもんじゃないの」

 だがもしカカシが《桂男》として他里から潜り込んだ者だとしたら、余りにも木ノ葉の為に尽くし名も売れ過ぎていて、いざという時に身動きが取れなくなってしまうだろう。
 平時は目立たず、程々に中枢の動きを把握でき、有事の際には外部からの指令も受けやすく動きやすい位置に身を置くのが桂男の役割だ。
 そう考えると、アカデミーの教師や任務受付を担う里常駐の中忍が妥当か。

「……むしろ、アナタこそって、オレは思いますケド?」

「……すみません。そういうつもりではなかったんですが……」
 
 

write by kaeruco。
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