カカイル2
□ホーム・スイート・ホーム
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言葉通り、手慣れた様子でフライパンに溶き玉子を流し入れ、すかさずご飯も追加すると軽やかにフライパンを振って煽り炒めにする。
ものの数分でナルトの前に大皿に山盛りのチャーハンと具沢山なスープが並んだ。
「いっただっきまーっ!」
「ハーイ、召し上がれー」
見る間にチャーハンを消費していくナルトの食べっぷりにややげんなりとしながら、カカシは冷蔵庫で冷やしていた麦茶を2杯注いで食卓に置く。
「なあ、ナルト」
「んー? うんはっへはよ?」
「食いながらでいい、聞け。これはかつての上忍師でも火影としてでもなく、1人の男としての助言だ」
「……はに?……」
厳しい任務の最中ですら滅多に聞けない、真摯な声音でカカシはナルトに告げる。
「家事は分担しろよ」
「……は?」
「最初から全部やれとは言わない。まずは手伝いからでいいから、あらかた出来るようになっておけ」
「えっとー、カカシ先生?……」
「ちなみにオレは、久々に里外の任務からお疲れで戻ったイルカ先生におかえりなさいより先に風呂から濡れたまま顔出して着替えどこか聞くついでに夕飯リクエストしたらパンイチで放り出されました」
小雪のチラつく寒い冬の夜でした、と遠い目で語るカカシにナルトはかける言葉がない。
だって自業自得だと思うけれど、自分だってやり兼ねない気がするのだ。
流石にあのヒナタがイルカのように怒りに任せて家から叩き出すなんて事はしないだろう。
むしろ内に溜め込んで自分が悪いのではと影で泣くかもしれない。
そんな姿は見たくないし、させるつもりで結婚したわけでないのに。
「お互い好きあって家族になったんだからさ、家事も分け合いなさいってこと。分かった?」
「お、おう」
話している間に山盛りだったチャーハンも苦手な野菜のスープもすっかり胃に収め、スプーンを置いたナルトは勢い良く両手を合わせる。
「ごちそーさん! あんがとな、カカシ先生」
「お粗末様でしたー。……お?」
「ん? ……あ、」
カカシの目線が自分の背後に向いたのを追って振り向いたナルトは、硝子戸を引き開けて姿を表したイルカに気づく。
勝手に上がり込んでいるのはいつものことだが、挨拶はしなければ相変わらず威力十分なゲンコツが落とされるので咄嗟に口を開く。
けれど、見慣れない姿にあんぐりと口を開けたままになる。
「……イルカ、先生?……」
「……ん? ああ、来てたのか、ナルト……」
普段はきっちりと結い上げていた髪を下ろしているイルカなど10年を越える付き合いの中で初めて目にした。
服装はベストや額当てをしていないだけでいつもと変わらないのに、髪を下ろして気怠い空気をまとったイルカは何故か目のやり場に困る。
落ち着きなく視線を彷徨わせるうち、思考は散漫になっていく。
そういやカカシ先生の素顔もまだ見たことないってばよ、でもお茶は飲んでたよな、あれってばどうやって。
そんな事を無意識に呟いている間に、席を立ったカカシはイルカに寄り添っている。
「おはよ、イルカ。もうお八つ時だよ、なんか食べる?」
「……いえ。顔、洗ってきます……」
労わるように肩に触れて見たことない程柔らかく微笑んだカカシと、その手に安堵の笑みを返すイルカ。
たったそれだけの触れ合いでしかないのに、間近で見せつけられたナルトは辟易とした。
イルカがふらりと洗面所へ消えてもなお、まるで我愛羅の術を砂糖で食らったと言うか、身体中に細かい粒子が纏わり付いているようなべたべたした甘さとざりざりとした感覚が残る。
write by kaeruco。
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