カカイル2
□ホーム・スイート・ホーム
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ただ、どういう訳だか切なく、同時に胸の辺りが暖かくなった気もした。
「……なあ、カカシ先生……」
「なあに?」
「……とーちゃんとかーちゃんもさ、先生たちみたくイチャイチャしてたか?……」
ナルトは両親の顔も名前も知らないまま育った。
数年前に終結した戦争の際に運良く遺された両親の想いに触れ、2人の馴れ初めや自分の生まれた日の出来事をようやく知る機会を得られたのは僥倖だろう。
それまでのナルトは恩師のイルカや仲間のサスケに家族の繋がりを重ねているだけだった。
そしてカカシはナルトの父親とは師弟関係にあり、当時あの夫婦と一番間近で接していた1人である。
「……うん。ま、もっとおおっぴらだった、かな……」
返す言葉に苦笑が混じるのは仕方がない。
カカシはあの先生ほど邪気なくスマートに振る舞えないし、彼女より甘え下手なイルカが人前でどうこうなんてあり得ない話だ。
人目のない自宅で気を抜いた───今のように寝起きだとかかなり深酒した時くらいしか、教え子たちにさえ2人のそんな姿は見せていない。
それでも垣間見た姿が思い出と重なるなら、多少は見せつけるのも構わないとカカシは思っている。
後で我に返ったイルカの羞恥と自己嫌悪混じりの恨み言だって受け止めてやれば逆に甘やかす理由にもなるだろうし。
「……そっか」
なにより、懐かしそうに笑うナルトの男っぽく成長した顔が見られたのだから。
「おい、ナルト。お前、晩飯食ってくのか?」
洗面所から聞こえていた水音がやんでしばらく、顔を出したのは先程までの空気を払拭し、髪も結い上げたいつもと変わりないイルカだった。
そのうえ、開口一番、飯の話。
「イルカ先生。オレ、今、昼飯食ったとこだってばよー」
「こんな時間にウチに飯食いに来たって事はヒナタいねえんだろ?」
だからどうするか聞いてんだ、と続けながらイルカはカカシの使っていたグラスに麦茶を注ぎ足して一気に飲み干す。
ナルトの前に出されたままの食器から状況を把握したのだろうが、忍者としての推量というより母親っぽく感じる。
何を言うでもなく、自然な流れで空いた食器を流しに運んで洗い物を始めるせいだろうか。
「あー、夕方にヒナタ迎えに行くけど?」
「今夜は鍋すっから、ヒナタ迎えに行ったらまた戻ってこい」
水の国から魚が届いたんだ、と笑って冷蔵庫の隣に積まれたトロ箱を指す。
送り主は先日視察に来ていた霧隠れのアカデミー教師一同で、中身は腹の膨れた大きな真鱈が2尾。
グロテスクな見た目としょっぱい気持ちになる名前はともかく、今の時期なら脂も乗って腹子も白子も楽しめるだろう。
「マジ? あ、締めは絶対ラーメンな!」
「……お前ねえ……」
お呼ばれなのに図々しくも締めのリクエストをして来る部下に、カカシは溜め息を吐くだけだ。
授業と無関係な所では教え子に甘いイルカなら当然、その要求に応えてしまうのが分かっている。
それでも、家族を知らないまま育ったナルトが今や家庭を持つまでになって、ただの師弟でしかない自分たちと家族のように過ごす時を楽しんでいるなら、それでいい。
そう考える自分も、彼に負けず劣らず、この手のかかった教え子には甘いなと自嘲して。
【了】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
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WRITE:2014/12/18
UP DATE:2014/12/20(mobile)
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