カカイル2

□雪囲い
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雪囲い
〜 Snow Cage 〜
〜 nartic boy 30,000hits 〜



 重く厚く雪雲が垂れこめた空は、暗いばかりで星はない。

 降り積もってゆく雪はどうどうと唸りをあげて吹き上げる風に舞い上がり、白く視界を遮る。

 この地域一帯が豪雪に見舞われていることも、天候が崩れそうなことも分かっていた。

 それでも任務の帰り道に、最短距離だからとこのルートを選択したことを今になってカカシは後悔している。

 だが、夜の闇と深い雪に行く手を阻まれ、強い風と寒さにあらゆる感覚器官を遮断されては、もはや山を降りることもできなかった。

 それに、遭遇した敵をこのままにはできない。

「……ま、それはお互い様だろーケド」

 岩陰に雪洞を掘り、身を隠したところでカカシは一息、そうこぼした。
 
 一応、周囲に気を配ってはいるが、匂いと音は雪混じりの風にかき消され、視界は雪と闇に阻まれて何も分からない。

 写輪眼を使えば、チャクラを探ることはできるだろう。
 しかし、ずっとそうしていることは不可能だった。

 なにより、任務帰りのことだ。
 里へ戻る以外の体力は殆ど使い果たしている。

「あー、寒ぅ」

 心底寒いというのに、自分の言葉はやけに白々しく聞こえた。

 まるで寒さなど微塵も感じていないような、下手な素人芝居のセリフみたいに。

 両手を擦り合わせながら静かに息を吐いた。

 口布越しに漏れる呼気は雪洞の中だというのに白くわだかまる。

「ほんと、寒いねえ」

 もう1度呟いてみても同じだった。

 感情を無くしたのかと思って、とっさに浮かんだ名を呼んでみる。

「いるかせんせえ」

 呟いた名前は、会いたい気持ちのせいか思っていたよりひどく甘ったるい声がでた。

 さっき、寒いと言った声とは別人。
 自分でもそう感じ、安堵した。

 同時に、呼んでしまったことで、かの人への思いも募る。

「どうしてるかな」
 
 任務先で同じように寒さに凍えているだろうか、それとも里でぬくぬくとしているのだろうか。
 どうせなら後者がいいとカカシは思う。

 あの人にはいつも幸せでいてもらいたいのだ。
 それが忍びという生業ではムリな願いだと分かっているからこそ、出来るだけでいいから。

 寒い夜に大好きなラーメンで温まって、軽くアルコールも口にして、ご機嫌で家路を辿る。
 熱い風呂にもゆっくり浸かって、湯冷めもしないうちによく日に干した布団でのびのびと眠って欲しい。

「オレがこんな寒い思いしてんのに」

 自身の想像のイルカへ拗ねた声を出すほど、ささやかな幸せの中で生きてくれればいい。

 そしてちょっとだけ、自分のいないことを淋しいと思ってくれれば。

「……なぁんてね」

「何が、ですか」

「へ?」

 顔を上げると真正面──それもごく近くに、たった今、想像していた顔があった。

「なにしてんです?」

 ひどく呆れた声と表情で自分を覗き込む人は、見慣れない防寒着を兼ねた野戦仕様の外套こそまとっているが、間違えようもない。

「……いるか、せんせえ、こそ」

 それだけ言うのが精一杯。
 
 
write by kaeruco。
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