カカイル2
□流れ星
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かといって、敵忍に別の地区で戦闘をしろと言えるわけもない。
あらかじめ住民を避難させることも、相手に動きを気取られる恐れがあるからできはしない。
「大丈夫です」
耳のすぐ、近く。
今にも触れそうな位置からこそりと響く声。
「あなたが心配するようなことには、させません」
そのためにも。
「あなたが見てきた地形を教えてください」
分かっているのだ。
カカシにだって。
イルカの案じるところが。
この状況での戦闘で何が起るのか。
当然だ。
年はさほど変わらなくともカカシはイルカと年月で2倍近く、戦闘回数なら数倍の忍者としての経験を積んでいる。
才気に溢れながらも努力もし、そしてどんな苦境をも脱して経験を積んできたからこそ彼があるのだ。
木ノ葉隠れ、屈指の忍び。
写輪眼のカカシが。
そんな彼を誇らしく、また愛しく想う気持ちが溢れそうになる。
だがほんの一瞬、目を閉じただけでイルカの心は切り替わっていた。
彼とて優秀な忍びだ。
常に、何を第一にすべきか既に知っている。
「尾根から麓の里へ数本の沢が伸びているのが分かりますか?」
「はい」
「その沢に挟まれた森の表面は乾いて見えますが、まだ多量の雨で飽和状態です」
水遁の水源とするにはいいですが、と注釈を加えておいて言葉を続ける。
「山肌はどこも崩れやすくなっています。考える以上に簡単なことで山全体が崩れてもおかしくないぐらいに」
「……そりゃあ、やっかいですね」
「そうなれば、この麓の里は全滅。下手をすれば下流の都にまで被害が及ぶかもしれません」
「なるほど」
それも狙いかな、とカカシは侵入者の意図を読む。
「周囲への被害が最も少ないのは、東の峰の岩場でしょう」
森を通して指し示す先を確認したのだろう。
「ありがとうございます」
流石イルカ先生。
無理をして引き締めた言葉のあと、耳元に小さく甘い声がこぼれた。
緩まず抱きしめてくる腕に、そっと手を重ねていたからだろうか。
逆じゃないかと思い、イルカはそっと背後を窺い見た。
「ダメです」
それを避け、カカシは肩口に顔を埋めてしまう。
見えるのは逆立った頭髪だけ。
けれど、頬に触れる柔らかな髪の感触が心地よかった。
「今、イルカ先生の顔みちゃうと、色々しちゃいそうだからヤメテください」
オレの顔は猥褻物かよっ。
そう、突っ込みたかったが、なんとか堪えた。
分からないでもない。
これから、もしかしたら次の瞬間にも戦闘になるのだ。
のんびりと語り合っている場合でも───いちゃついている場合でも、ない。
「オレはこれから侵入者の撃退に行ってきます」
顔をイルカの肩口に押し付けたままだからか、くぐもった声が体に響いてくる。
「イルカ先生たちは麓を哨戒して」
一応、気をつけるけど。
「もし……。もしもの時は、麓の人たちお願いします」
「はい」
背後の人の温もりだけを感じ、真っ直ぐに前を見て答えるイルカの視界を、何かが煌きながら横切って消えた。
「あ」
「どうしました?」
「あれ、見てください」
促され、そっとイルカの示す空を覗き見たカカシの目にも、瞬いて流れるものが見えた。
不規則な感覚で1つ、時に2つと光が流れていく。
「流れ星? いや、流星群ですね」
古来から流れ星は不吉とする言い伝えも多いせいだろう。
こんな日に、とこぼすカカシの声は暗かった。
「知ってますか、カカシさん」
write by kaeruco。
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