カカイル2

□Love & Peace
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 それからも何度か酒の席で、それ以上に日常の端々でイルカ先生と顔を合わせた。

 なんでもない風を装いながら全身でイルカ先生の動き、言葉、息遣いまでを感じ取ろうと、そして決してこの気持ちを気取られてはいけないと気を張り詰めて。

 あれ以来、オレはおかしい。

 あの人に触れる女の姿を想像して、言い知れぬ焦燥に襲われる。
 そして、同時に湧き上がる欲求に戸惑った。

 イルカ先生の元へ嬉しそうに駆けていく部下の後姿が妬ましく思えるようになった。
 いとおしげに教え子の頭を撫でる手や笑顔が、自分へも向けられないだろうかと考えた。

 あの男の隣りに居るべきは自分だといい。
 あの手に触れて、触れられるのは、自分1人ならいい。

 そこまでになってようやく気付く。
 自分の思いの行方に。

 オレは、イルカ先生という人が好きになっていた。

 人間として、友人として、そして恋愛と欲望の対象として。

 途端に後悔した。

 気付かなければ良かった。
 好きだと彼に告げることはできない。
 そう思い込んで。

 だが決意とは裏腹に、彼との友人としての付き合いは続いている。
 どうしても、イルカ先生の隣りを手放す気にはなれなかった。


 


 うみのイルカという男は、変わっているように見えて、その実、普通の男だった。
 いや、忍びとしての感覚と、普通の人間としての常識をどちらも普通に持っているというところが、変わっているのかもしれない。

 明け透けな感情を見せるかと思えば、嫌に冷徹な顔もみせる。
 忍者アカデミーの教師が天職のように子供たちに好かれているくせに、受付所での書類処理の手際のよさは評判がいい。
 任務に出た先での的確な判断力と度胸の良さから、仲間たちと依頼人の信頼が厚いと聞いた。

 職場での対応は丁寧だが、プライベートでは存外に口が悪い。
 上役には可愛がっている人も多いけれど、決して権力に媚びたりしないから同僚や部下から妬まれることもない。
 しっかりしてるようで、とんでもないドジを踏んだりもする。
 意外性ナンバーワンのドタバタ忍者が最も慕う人は、教え子以上の意外性の持ち主だと知った。

 そんなふうに彼を知れば知るほど、不思議な男だと思う。
 そして混乱する。
 
 この気持ちを告げれば、確実に拒絶される気がする。
 同時に、受け入れてもらえるんじゃないだろうかという期待も抱いた。

 だって、いつしか、オレはイルカ先生の家に上がりこむような仲になっている。

「カカシさん、ビールでいいですか?」

「はい。嬉しいデス」

 仕事の帰りに偶然を装って声をかけ、夕食を共に取った帰り道。
 こうしてイルカ先生の部屋へ上がりこむのは何度目だろう。

 この部屋は物が少ないわりに乱雑で、奇妙に居心地が良かった。

 冷えたビンとグラスを2つ手に戻ったイルカ先生が正面に座る。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 特に気負うこともなく互いのグラスを満たしあって、自分のグラスを掲げあう。

「乾杯」

「お疲れ様でしたー」

 言葉どおりに杯を干して、それからは手酌で注ぎ足す手を、何とはなしに見てしまう。

 男の手だ。
 骨ばって傷だらけ。
 なのに右手の中指にはくっきりとペンだこなんてできている。
 そして、優しく子供たちを撫でる暖かな手だ。

「何見てんです?」

「や、手酌じゃ申し訳ないかな〜って」

 何度も繰り返した言葉だ。
 
 
write by kaeruco。
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