カカイル2

□手紙
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 それを手掛かりに若い頃の手紙を見つけては、イルカの中で悔しさと寂しさが増した。

 カカシは持って生まれた才能や、努力して勝ち得た栄誉に満ちた人生を歩んできた。
 だがその代償として失ったものは計り知れない。
 両親、仲間、師。
 イルカだって同じだけのものを失ったけれど、状況や立場が違い過ぎる。

 カカシの生きてきた道程は壮絶で、ほんの一端を知るだけのイルカですら辛いものだ。

 だからだろう。
 手紙は年若くなるにつれて間隔が狭まり、過去の自分を責める言葉が僅かな文章を覆い尽くすように連なっていく。

 最後の、1番古い───15才のカカシが書いたものなど、あまりに痛々しく、涙せずに読み切ることが出来ない。

 15才のカカシ。
 友人を失った替わりに写輪眼を得たか、あの災厄の夜に師を失ったばかりだろう。

 全てを亡くして尚、生き延びた自分に自問自答を繰り返し、自己否定の言葉ばかりを書き連ねた、誰に宛てたでもない手紙。

 15才のカカシが何を思ってこれを書き、かつ残したのか、今のイルカには解る気もする。

 けれど、判りたくはなかった。

 26通の手紙に記された、カカシの人生。
 
 イルカはそれを抱き締めてやることしかできない。

 だって、もう。

 15才のカカシが書いた手紙。
 その最後にしたためられた、言葉。



───もし、50年後
 オレが60過ぎになる頃
 それまで、この手紙が、
 誰にも読まれてなかったら
 それって多分、
 幸せな人生だったって
 ことかも───



 そう、それは幸せな人生だ。
 そして、現実。

 カカシは今日、64才になった。

 もちろん、五体満足。
 写輪眼の左目はかなり視力を落としているし、酷使された右目もだいぶ悪い。
 でも、それくらいだ。
 むしろ若い頃より背筋が伸びて、立ち居振る舞いがきびきびしてきたように思う。

 第一線は退いたが、引退する気はないようで、鍛錬は続けている。

───まだまだ、若いモンには負けてられませんヨ

 そんな口癖を残し、救援任務に出て行くのも日常だ。

 今日も誕生日だっていうのに忍犬を引き連れ、迷子になったアカデミー生を探しに演習場へ出かけている。

「……こんなこと、してる場合じゃないな」
 
 63才のカカシが書いた手紙を元通り本に挟み、昔の25通を自分の懐にしまってイルカは立ち上がる。

 いつか彼の望んだように処分するつもりだ。
 でもそれまでは、持っていても構わないだろう。

 それよりもまず、さっさと部屋を片付けて、教え子たちと共に彼を祝う支度を済ませてしまおう。

 そして帰ってきたカカシを真っ先に抱き締めて、この先の幸せな人生を彼に贈るのだ。

 
【了】
‡蛙娘。@ iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2009/09/15
UP DATE:2009/09/15(mobile)
 
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