カカイル2
□WHITE CLOWN
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顔を上げたイルカへ、カカシは自身の口元へ上げた右手で猪口を持って傾ける仕草をする。
それは、いつの間にか2人の間で決まりごとになった、今夜の誘いの合図だった。
イルカの都合が良ければにこりと微笑んでいいですねなどと言ってくれ、悪ければとても残念そうに眉根を寄せて頭を下げて任務の労う言葉をかけてくる。
今日は、前者のようだ。
「はい。それでは、後で」
イルカがこう言えば、直に交替できるからカカシは上忍待機所で待っていればいい。
仕事を終えたイルカが、待機所から見える待ち合わせ場所へくるまで。
「…ええ」
望んだ答えに、嬉しそうにふわりと微笑んで、カカシは見事な瞬身でその場を後にした。
* * * * * しばらくして、上忍待機所にカカシが姿を現した。
どうしたことか、ドアを閉めた途端にへたり込んで、大きく息をつく。
「…ふ、はーぁあ〜〜〜ぁ」
土足で人々が歩き回る床の上──しかもわんこの「お坐り」体勢で座り込み、魂の抜け出しそうなため息をつくカカシ。
ほうっと、頬を染めるカカシの目には、70年代の少女漫画のように星が煌めいていた。
しゃんとしていた背筋はだらしなく曲がり、うふうふと今日のイルカについて脳の腐れた感想を並べ立てる。
「あーぁ……。今日も、かっんわいかったなー、イルカせんせ〜」
先程の報告所での落ち着きはらった態度とは打って変わり、カカシは別人のように振舞っていた。
けれど、待機所で午後のコーヒーブレイクを楽しむ上忍たちは、そんな里屈指の上忍の姿を訝しくも思わないらしい。
実は多くの中忍たちが抱いているカカシ像は、真実も含まれてはいるものの、半分以上が幻想でしかない。
多分、幼い頃から大人に混じって働いていたのがいけなかったのだろう。
実力はともかく、年齢的には常に一番下で甘やかされ放題の環境だったからか、成人したカカシはなんともお粗末な精神構造の持ち主となってしまっていた。
はっきり言ってしまうと、はたけカカシの正体は、実力と経歴ばかり1人前のお子様上忍なのだ。
だが、そんな情けないことを吹聴するわけにも行かず、里の上層部は沈黙している。
そして同僚たちは、なんやかや言いつつも無邪気なカカシを昔と変わらず可愛がっているのだ。
からりと戸が開き、カカシの同僚(兼、第一保護者)であるアスマと紅が顔を出す。
「カカシ、今日はずいぶん頑張ったじゃない」
へたり込んでいるカカシの頭に手を置き、にこやかに紅は言った。
犬を誉めるように、がしがしと力強く頭を撫でてやりながら。
大雑把に撫でられ、嬉しそうにカカシは顔を上げる。
「ホントに?」
「ええ」
紅は華やかな、それでいて怪しい笑みを浮かべる。
それだけで、まるで女王様がよくできた下僕を誉めているように見えるのは不思議だ。
そんな2人の姿に、色んな意味で耐え切れなかったアスマが口を挟む。
「ま、最後はちぃっとしまらねえがな」
「あら、カカシにしてはよくやったと思うわ」
最初の頃なんか、と撫でる手を止めて紅は続ける。
「イルカ先生の気配感じただけで、盛大に鼻血噴出しながら、不気味に身悶えてたじゃない」
「…そうだっけか?」
アスマは自身の記憶を辿る。が、そこまで激しい映像は見つからなかった。
write by kaeruco。
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