カカイル2

□ミイラ取り
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ミイラ取り

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「アナタがイルカ先生ですか」

 問いかけや確認ではなく、確信と何故か呆れているような色を含んだ声が、忍者アカデミーを出て自宅へ歩き出そうとしていたイルカの前に立ちふさがった。

 世にも稀な白銀の髪が重力を無視して逆立った男は、木ノ葉の額当てを斜めに締めて左眼を、そして口布で顔の下半分を隠している。
 両の手を腰のポケットに突っ込み、やや猫背ぎみの立ち姿は一見して隙だらけのようで、全く油断がない。

 声から察するに歳はイルカと同じくらいのようだが、キャリアも階級も高位の者だ。
 つまり、歴戦の上忍。

「あなたは?」

 だが、問い返すイルカの声には、同じ里の忍びだからと安心しきっている様子も、明らかな上位の者に対する畏怖や緊張といった感情もない。

 直立不動になることもなく、ただ軽く会釈だけをして書類袋を持った手でカバンの肩紐を直すような仕草さえしてみせる。
 
「はたけカカシです……って言えば、分かりますかねえ」

 どこか申し訳無さそうに左手で後頭部を押さえながら名乗る男の名と姿には、覚えがある。

 イルカは先程から少しの表情も声音も変えず、通常、上官に対するように答えた。

「はい。確かに自分がうみのイルカです」

 そして、他の者から見れば余計な一言を付け加える。

「確か、昨日の下忍引渡しに遅刻された方ですね」

「はははっ。言うねえ、アナタ」

 はたけカカシの弓なりになった右目は笑っているように見えるが、言葉だけのことだ。

 けれど、どこか本心から楽しんでいるようにも見えた。

 もしかしたら、自分に怯みもせず嫌味まで言ってくるような中忍が珍しいのかもしれない。

 そんな観察をしながらも、なんの感慨もみせずにイルカは少しだけ姿勢を正す。

「私のことはご存知のようですが、一応、名乗っておきますよ」

 うみのイルカです。

「あなたが担当することになった下忍たちをアカデミーで指導していました」

「そーうらしいですね」

 ふう、とワザとらしく大きく息を吐き、カカシは大げさに肩をすくめてみせる。
 
「あのナルトが相当、懐いてるみたいなんで、どんな人なのか気になりまして」

 いやもう、あいつに自己紹介させたら、ラーメンとイルカ先生と火影になるって話だけでねえ。

 ほとほと困り果てた風を装ったカカシが語る教え子の様子に、それまで無機的だったイルカの声が変わった。

「そうですか」

 あいつらしいな、と小声で呟いた顔が、ふわりと柔らかさを帯びる。

 そのイルカの顔に、カカシは不覚ながら見とれた。

 ナルトを下忍に認めた騒動で負った傷で、包帯に覆われた硬質な男の顔だというのに。

「それで、私に何か御用ですか?」

 そう、問い掛けたイルカはもう元の顔に戻っている。

 それを惜しく、そして不思議に思いながらカカシは本来の目的へ立ち戻った。

「ああ、そうでした。アナタに聞いておきたいことがあったんですよ」

「なんでしょう?」

「イルカ先生、アナタ……」

 ナルトにラーメンばっか食べさせてたデショ?

 真剣に問われる予想外の質問に、耐え切れずにイルカは吹き出してしまった。

「ぶっ……。はははっ、はははははっ!」

「ちょっと、イルカ先生、アナタ、笑い事じゃありませんよっ」
 
 
write by kaeruco。
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