カカイル2
□幸福の王子
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幸福の王子
1 子供たちとの任務を終えたはたけカカシが、報告書の提出に受付所へ入ったのはもう、とっぷりと日も暮れた頃だった。
いつもなら──カカシが遅刻をしまくっても、ここまで遅くなることは滅多にない。
ただ時たま今日のように、失せ物探しの任務では運悪く時間がかかることもあるのだ。
カカシが、まだ子供でしかない部下たちを遅くまで働かせぬよう気を配っていても。
───ま、今のうちだけ……だけどネ
カカシは1人、子供たちが泥だらけになって無事に見つけ出した依頼品と、記入の終わっている報告書を手に受付の扉をあけた。
薄明るい部屋にはくつろぐ数人の忍びと受付に座って書類を整理している2人の忍び。
「あれ?」
ふいにカカシが声を上げてしまったのは、予想していた者の姿がなかったからだ。
真っ直ぐ受付へ進み、手にしていた報告書と探し出した物とを差し出しながら問いかける。
「今日はイルカ先生じゃないの」
「いえ。さっき交代したところです」
名うての上忍にも臆することなく、慣れた様子で年若の忍びが対応する。
「そ」
報告書の内容と探し物は手際よく確認され、判をつかれた書類が次の処理へ渡る。
明日には依頼主に発見の一報が入り、依頼された品物と交換に里へ報酬が支払われるのだ。
「では報告書は受理いたしましたので任務終了となります」
会釈をされ、カカシも軽く目礼で答えて踵を返す。
だが、扉に手をかけ、出て行こうとする耳に声を潜めた会話が飛び込んできた
「おい。良かったのかよ」
「え? 構わないだろ。別に」
「鉢合わせなんかしたら修羅場だぜ」
「大丈夫だろ? そんな風じゃないし」
それは明らかに自分の関わる内容だと思ったカカシはそのまま気にせず出て行った振りをする。
受付から見えぬところまで歩き、気配を消して耳をそばだてた。
「そうかあ?」
「しかし、イルカも大変だよな」
「あそこまでモテるとな」
「まあ、お陰で楽させてもらってる気はするけど」
気の毒な同僚を案じる気持ち半分。
他人の不幸を面白がる気持ち半分。
そんな噂を耳にして、またかとカカシは思う。
とても続きを聞く気になれず、そっと離れた。
───イルカ先生も大変だよねえ……
カカシも最近気づいたのだが、イルカはモテる。
教え子である子供たちはもちろん、保護者や里の上層部。
同僚や受付で顔を合わせる面々など。
老若男女に大人気だ。
きっと(火影を含めても)この里で最も好かれている人かもしれない。
ただ時々、迷惑な好意というものもあるのだ。
特に、恋愛の枠から大きく外れた人々からの熱烈すぎるラブコール。
ゴールすることでなく、シュートすることに意義があるとは言え、やはり枠に飛んでいないボールは危険だ。
あの光景は──いい年をした大の男がもじもじと頬を染めて男に告白をする様は、傍で見ているほうに類が及ぶ。
せめて人目につかないところでやってもらい。
大体、うみのイルカという男は本当に印象が『普通』なのだ。
それも『忍びの世界において』ではなく普通の『人間らしい』自然な言動。
いっそ凡庸とか、中庸とか言ってもいいだろう。
write by kaeruco。
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