カカイル2

□最後の砦
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最後の砦
〜 nartic boy 2nd Anniversary 〜



 最後の砦。
 そう、呼ばれる男がいる。

 始まりは、昔から伝統のように行なわれていた、くのいちのお遊び。

 里に常駐する若い中忍たちを片っ端から獲って食い、その数を競うというものだ。

 くだらないとして加わらない者も多かったが、やはり殆どのくのいちがこれを経験する。

 理由は意地や興味、色々だ。

 容色も手管も術のうちとされるくのいち。
 また色香に迷ってはならぬのが忍び。

 そんな考えから、里の上層部にも黙認されてきていた。

 結果として、忍の数が増えることは里にとって悪いことではない。
 くのいちたちの矜持から生まれた優秀な者同士の子なら、なお。

 ただ近頃、このお遊びが変わり始めてきている。

 誰にも、絶対になびかない者がいるせいで。

 既に参加者の殆どが玉砕した中忍の名は、うみのイルカ。
 
 純情なふりをして近付けば気付かぬ素振りでかわし、あからさまに迫れば真面目にお断りをしてくれる。

 ただの朴念仁。
 多くはそう思い込んだ。

 けれど彼はアカデミー教師と任務受付を兼任し、3代目火影からの信頼も篤い優秀な男と言われている。

 それに、くのいちたちのお遊びは中忍たちにも知られているのだ。

 決して落ちないこの男が全てを分かって交わしているのだとしたら、相当な切れ者かもしれない。

 そんな誰も落とせなかった彼を手に入れれば箔がつくだろう。

 いまや極上のくのいちたちの標的はうみのイルカ1人に絞られている。

 だがやがて、上忍たちの間に1つの噂が流れだした。

 色々と変容してあちこちで似た話が聞かれはする。
 けれど突き詰めてみれば全て、うみのイルカは普通の女に興味がないというもの。

 あまりに多くのくのいちたちに迫られたせいで、女性不審なのだとか。
 幼い頃に親を亡くしたせいで、極度のマザコンなのだとか。
 アカデミー教師で子供たちに人気の彼は、実は幼女趣味なのだとか。
 他に少年趣味だとか、男じゃないとダメなのだとか、果ては3代目のお稚児だなんてものまである。
 
 そのどれもが的外れな憶測でしかなかった。

 だが、信じる者や妙な期待を抱く者は少なくない。

 ついには、お遊びの参加者はくのいちだけではなくなっていた。

 けれどイルカは、男女を問わず魅了する美貌の持ち主ではない。

 凛々しい顔立ちは表情豊かで、鼻筋を渡る傷も逆に愛嬌を加えているように見える。
 はっきりと男でしかない体格は、及第点を多少上回る程度だろう。

 振る舞いは親父臭いとアカデミーで受け持つ子供たちにからかわれもするが、受付で笑顔を振り撒く彼は人気があった。

 東奔西走するくのいちたちの影で、密かに彼への想いや欲情を募らせる男たちもいたわけである。

 だから噂に便乗し、こっそりとお遊びに参戦する者は多かった。

 けれど未だに、難攻不落の彼を攻略できた者はいない。

 故に、彼はいつしか『最後の砦』と呼ばれるようになったのだ。


 


「……って、ワケだ」

 長い経緯をはしょりもせず、律儀に語り終えたアスマはため息と紫煙を一緒に深く深く吐き出した。

 こういう面倒くさいことはご免被りたい身上なのである。
 
 
write by kaeruco。
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