カカイル2
□最後の砦
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だが、里の常識を弁えてくれない同僚はきちんと諭してやるべきだとも思っていた。
なにしろ相手は写輪眼のカカシ。
彼の恥は上忍全体──いや、木ノ葉隠れの里の恥。
「お前は目立つからな。自重しやがれ」
根元まで吸いきってしまったタバコを備え付け灰皿の縁へ押し付け、格子の隙間へ落とし込む。
じゅ、と一瞬だけ水が蒸発する音が響き、上忍控室にニコチンが溶ける匂いが広がった。
「ねーえアスマー」
視線も顔もあさっての方を向いたまま、カカシはぼつりと問いただす。
「それってさー、本気でアタックした奴とかって、いたの?」
「勿論、いたでしょうね」
傍らから割って入った声に、アスマとカカシは視線だけを向ける。
「紅」
「イルカちゃんならお遊び抜きでお相手願いたい子、結構多いわ」
自分の隣りに座ってしなやかに足を組み、余計な一言を付け加える紅にアスマは嫌そうな目を向ける。
この美貌の上忍くのいちは、カカシをいぢめることを至福としているやっかいな女だ。
「そーゆー紅は? どーなの?」
「手強くてねえ」
真偽はともかく、玉砕したと白状すればカカシは勝手に暴走気味の妄想を逞しくしてくれる。
1人想像の世界に身悶えるカカシの姿は、紅以外にとっては不気味この上ない。
「そういうあんたはどうなのよ。告白、したの?」
「……できてたらこんな悩んでないデショ」
「あら意外。見てるだけでいいってタイプだった?」
「そんなワケないデショ。オレだってもっとイルカ先生といちゃいちゃしたいのよっ」
カカシが具体的な『イチャイチャ』について語りだす。
こうなるとアスマは自分自身と、公共施設である上忍控え室利用者のために2人を御さねばならなかった。
「紅。もう、やめてやれ」
「これからが面白いのに」
残念そうに微笑むが、遊び過ぎれば危険だと弁えている彼女はあっさりと引き下がる。
「そうそう。今日の受付、イルカちゃんだったわよ」
そればかりか、目の前の不気味な妄想男を写輪眼のカカシへ立ち戻らせる言葉まで加えてくれた。
「わざわざ寄ったのか? 休養日だってのにご苦労だな」
今日は3班とも、任務も鍛錬もない休養日。
彼らが教導を任されている下忍たちとの任務がなければ、基本的に上忍師は受付に用はない。
もしや、イルカに会えず悶々とするカカシをからかうネタでも仕入れに行ったかとアスマは思ったのだ。
「まさか。でも、いつもと受付近くの雰囲気が違うもの」
「確かに」
「やっぱ、イルカ先生の笑顔に迎えられると任務の疲れも吹き飛ぶよね〜」
カカシの言葉に頷きながら、紅とアスマは下忍との任務でどう疲れるんだと密かにつっこむ。
いや、元気なだけの子供相手では気苦労は耐えないが、それは任務疲れとは別だ。
「で? 今日はどうするの?」
「あー。こないだオレ1人だったし、できたら」
「じゃ、今夜は私が声かけるから、アンタたちは途中で合流なさい」
「うん。頼むね」
「オレもかよ」
「当然でしょう。あくまでも、上忍師が元担任に子供たちの様子を聞こうってことにしてるんだから」
たまにはアスマも顔だしなさい。
「ったく、めんどくせえ」
そうは言っても、アスマがこないということはないだろう。
彼なりに、イルカのことは気に入っているのだ。
もちろん、カカシとは全然違う意味で、だが。
write by kaeruco。
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