カカイル2

□最後の砦
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 そしてそれは紅も同様。

 実はアスマと紅の2人は、イルカに関わろうとする者たちを牽制してきたのだ。

 ただ、カカシだけは何故か──下手な牽制が通じる相手ではないからかもしれないが、からかいながらも関わりを認めている。

 もしかしたら、単にたかっていただけかもしれないけれど……。


 


 その晩も紅の誘いをイルカは快く受け、2人は日暮れの頃にまだ人もまばらな酒場へと繰り出した。

 すぐに偶然を装ってカカシとアスマも合流し、4人の陣取る卓は瞬く間に空となった徳利が転がる。

 やがてすっかり日も落ちて酒場も混みだしてくると切り上げ時だ。

「そろそろ河岸を変えますか」

 カカシがそう切り出し、それぞれが財布に手を伸ばすのはいつものこと。

 ただ今日に限って代金を卓に置いて店を出た途端、アスマが空を見上げて呟いた。

「イルカ。悪いがオレたちはここまでだ」

「これからって時に無粋よねえ」

 頭上には上忍たちに召集を告げる忍鳥が旋回をしている。

「じゃあね、イルカ先生。今夜も楽しかったわ」

「こちらこそ」
 
 しかしそんな緊張感を微塵も滲ませずに紅は優雅に微笑み、アスマは新たなタバコに火をつけようとしている。

 そして、相当な量を飲んでいたはずの2人は酔った素振りもなく、駆け去ってしまった。

 同じように、周囲の店からも次々に上忍たちが飛び出している。

 控え室や火影の執務室のある里の中枢ではなく、大門へ向かっているのをみると、随分な非常事態かもしれない。

 当然、カカシも呼ばれているのだろうが、中々イルカのそばを離れずにいた。

 しばらく困った風にぼうっと立ち尽くすカカシを眺めた後、イルカはいつもの受付での表情を見せた。

「カカシさんも、お気をつけて」

「行って来ます」

 その言葉を待っていたのだろう。
 にこりと右目をたわめてカカシも応える。

 離れ際、2人は親しげに何事かささやき合い、カカシは瞬身で姿を消した。

 繁華街は先程までの賑わいから急に静まり返っている。
 ネオンの眩しさが淋しく感じる通りを1人、イルカは帰途についた。

 けれど灯りの途切れた路地でふいに足を止め、ぐるりと周囲を見渡しながら呟く。

「……そろそろ、オレも行かないとな」
 
 召集されてはいない中忍のイルカもまた、暗闇に溶けるようにその場を後にした。


 


 この夜の襲撃者は異様だった。

 数、陣容、時間。
 どれをとっても、記録にもセオリーにもない。

 故に、狙いも把握できず、木ノ葉隠れの里では後手後手の対応になってしまう。

 こういった時、最も頼りになるのは前線に立つ、経験豊富な忍だ。

 カカシはまだ若いが、中忍になってから既に20年以上。
 それも、3代目や4代目、伝説の三忍や自身の父といった才長けた忍のそばで積んだものだ。

 元々の素質や努力に加え、そういった経験によって養われた彼の能力は人々から天才と呼ばれてしまう程にずば抜けている。

 そしてカカシは他人から見える自分自身をも良く分かっていた。

 カカシの姿を見れば味方は奮起し、敵は浮き足立つか狙ってくる。
 そこを後詰の隊が突くのは容易だった。

 救応の隊として最も押されている部隊へ駆けつけ、敵戦力を半減させると適確な助言を残して転戦することを繰り返した。

「随分と張り切ってやがるなあ」
 
 
write by kaeruco。
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