カカイル2

□ひとり
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ひとり

 2



 部下の手を借りて包帯を巻き終え、額当てを締め直したイルカは顔を上げた。

「大丈夫ですか、隊長」

「ああ、問題ない」

 自身の言葉を実証するために1人で立って見せ、ぐるりと首を回す。

「それより、お前らはどうなんだ? 自己申告してくれんと、状況が分からんからな」

「お、オレたちは平気ですっ! なあっ?」

「はいっ」

 冗談めかしての問いに、妙に緊張した声が返った。
 それに、血の匂いもしている。

 どうやら被害は軽くないらしいが、気遣って平気な振りをしてくれているようだ。

「そうか」

 ここは騙されたことにして、感じ取れる様子から隊の状態を把握するしかない。

 なにしろイルカの眼は、囲みを突破するために使った閃光玉の影響で一時的に見えなくなっている。

 下手に突き詰めたりして、無駄にチームワークを乱す必要はなかった。
 
 むしろ、不利な状況での連帯感やそれぞれの責任感を──言い方は悪いが利用して、この窮地を脱するほかないだろう。

「里の方向と距離は分かるか?」

 多分、最も負傷の少ないだろう部下へ声を掛ける。

 少しの沈黙の後、慌てたような声が返った。

「はい」

 どうやら無言で頷いた後、イルカが見えていないことに気づいて返事をしたのだろう。

「よし、先行してくれ。ルートは任せる」

 他の2人に周囲を警戒させ、イルカは殿(しんがり)を詰めることにした。

「とにかく真っ直ぐ里に向かおう。もう追っ手に構っていられる状況じゃない」

 さっきはイルカが伏兵となって、逃げた振りをさせた部下たちと虚をついて追っ手を倒すことができた。

 しかし、敵だって忍びだ。
 2度同じ手は通じないだろう。

 あれだけの数を退けたと知れたら、追っ手が増えてくる可能性だってある。

「行こうか」

「「「はいっ」」」

 先行する部下の足跡を辿ってイルカも後に続く。

 視界が利かない分、他の感覚やチャクラで補うしかない。
 慣れた里ならともかく、国内とはいえ初めて通る森ではどうしても遅れてしまう。
 
 負傷した部下たちもいつもの速度ではないのに、だ。

 イルカは自身の不甲斐なさに歯噛みをしながらも、焦ってはダメだと心の奥で言い聞かせる。

 なんとか速度を上げ、それでも慎重に周囲を探りながら進んでいく。

 国境を越えたとは言え里まではまだ遠く、敵の勢力圏には近い場所だ。

 近付いてくる気配もある。
 決して油断はできない。

「隊長」

 すぐ前を行っていた者が速度を落とし、並んできた。

 一瞬、怪我が酷いのかと思ったが、そうではないらしい。

「オレは大丈夫だよ。それより前の2人を頼む」

「……はい」

 躊躇いがちな声の後、また速度を上げて先行していく。

 心配してくれるのはありがたかったが、回り込まれたら3人で凌いでもらわなければならない。
 隊列は崩して欲しくなかった。

 ここで何かあっても、イルカは足手まといになっても助けてはやれない。

 移動するだけでも、普段どおりにはいかないのだ。
 戦闘は考えないほうがいい。

 それでも、最もリスクの高い殿を務めるのは、隊長としての責任からだ。
 襲撃されたら、部下が判断をする時間を稼ぐのが役目と思っている。
 
 
write by kaeruco。
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