カカイル2
□ひとり
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ひとり
3 やはり、先回りをされていた。
先行していた3人目掛け、無数の暗器が襲い掛かる。
いち早くイルカが察知したお陰で足止めにしかならなかったが。
しかし、雨のように降り注いだクナイや手裏剣の全ては捌ききれず、皆いくつか傷を増やした。
それに、今となっては足止めされることすら痛手になる。
「止まるなっ」
その声に踏み出そうとした足元へ、牽制のように手裏剣が突き立つ。
だが、既にイルカは手裏剣を投げてきた敵の元へ跳んでいた。
勢いのままクナイを突き立てて倒れる身体を足場に方向を変える。
身体を捻る間際に周囲へ手裏剣を投げた。
「走れっ! 里へっ」
視界が利かないはずのイルカの動きに敵は動揺し、味方は勇気付けられる。
部隊は一気に囲みを突破し、イルカを中心にして里へと疾走した。
追いすがる敵忍は振り切られまいと、執拗に暗器を投げ続ける。
追撃されながらの逃走は心理的にも肉体的にも疲労度が高い。
それにここまで丸1日以上、走り続けだった。
ついに、木ノ葉の忍の1人が疲れに足を取られ、避け損ねる。
「コナラッ!」
鈍い音と悲鳴のような声に、イルカも何があったかを悟る。
足元へ倒れこんだ様子から、生きてはいるが意識はないと判断した。
乱暴だが、下り斜面へ向けてコナラを蹴り落とし、この場を離れるように進路を変える。
「止まるなっ」
「しかしっ」
「コナラがっ」
仲間を見捨てるような行動に躊躇する部下に説明してやる余裕はない。
だが、彼らだって分かっている。
意識のない味方を抱え、庇いながら逃げきれる状況ではないと。
自分たちが奮戦し敵を殲滅するか、生死の分からない者を捜索させる暇を与えなければ、コナラは助かるだろう。
今はコナラ自身の運と生命力に賭けるしかない。
「オレたちが生き延びれば、あいつだって救ってやれるっ」
飛び込んでくる敵を交わし様切り捨て、イルカは部下を叱咤する。
「今は少しでも、敵を減らせっ」
指示を出しつつ戦うイルカを面倒とみたのか、攻撃が集中しだす。
だが逆に、残る2人は動きやすくなった。
イルカを庇うように動けば、相手が勝手に間合いへと飛び込んできてくれる。
やがて3人の動きは自然と卍の陣となり、徐々にコナラを蹴落とした場所から離れていった。
移動しながら確実に敵を屠っていくものの、イルカには不安が募る。
自分たちは里から離れていないか。
敵の国境へ追いやられていないか。
今のイルカにとって唯一方向を示すのは、足元の僅かな傾斜と肌で感じる木漏れ日だけ。
同時に敵の気配や味方の動きも僅かな音や空気の流れ、チャクラの強さで感じなければならない。
普段、眼から得ている情報を他の器官で補いながら戦うのは酷い負担だった。
しかも、息をつく暇はない。
イルカだけでなく、両翼でクナイを振るう部下2人も疲れ果てている。
いくら訓練され、それなりの経験を積んできたとはいえ、その集中力には限界があった。
その刹那を狙う者がいる。
僅かな連携の隙間からイルカへ襲いくる数本の刃。
write by kaeruco。
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