カカイル2
□ひとり
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ひとり
1───簡単な任務というものはない。
下忍時代から散々聞かされてきた言葉を、イルカはしみじみと噛み締める。
いや、元々この任務は決して楽なものではない。
それを覚悟していたはずがこの有様かと自嘲した瞬間に、思い出したのだ。
中忍だけの4人部隊だが、それぞれの戦歴はさほど芳しいものではない。
中には昇格後に怪我で療養を余儀なくされ、これが実質的な初任務という者さえいる。
隊長を務めるイルカですら、戦地より里での教師生活のほうが長くなっていた。
任務にしても、中忍のみでこなすレベルではない。
けれど、それが里の意思ならば遂行しなければならなかった。
「全員、動けるな?」
背後に集結した部下たちを見渡し、確認する。
イルカを含め、無傷なものは1人としていない。
滅多に人の立ち入らないだろう深い森の中だ。
傷口から滲む血の匂いが敵を引き寄せ、枝に残る忍び独特の歩幅の足跡が追跡を容易にしているのだろう。
追っ手には上忍レベルの者がいる。振り切ることは難しい。
部隊が生還する道は、ただ一つ。
相手を殲滅すること。
「生きて、全員、里へ帰るぞ」
それがこの任務の目的だった。
厳しい状況を生き抜くことで得られる経験、そして実績。
それらをもって長く里にあった者や経験の少ない者の実力の底上げ。
だが、それも与えられた任務をこなし、無事に帰還してのことだ。
死んでしまっては元も子もない。
この部隊でこなせるギリギリの任務だと知っていた。
そこから全員を生きて里へ連れ帰るのだとも。
だから、自分が何かを間違っていたかを悔やむのは里へ戻ってからでいい。
里を出るときにした覚悟と、交わした約束をもう一度心の奥で繰り返し、イルカは告げた。
「合図をしたら、里へ向かって走れ」
敵はもうそこまで迫っている。
数は、およそこちらの倍。
個々の戦力も上回っているだろう。
どう考えても、厳しいことだけしか確かではない。
「走れっ」
その声に、部下たちは一斉に里へ駆け出した。
木ノ葉の忍びだということがバレている以上、下手な小細工をする必要も余裕もない。
追っ手もこちらが動き出したことを知り、追跡の速度を上げている。じきに、頭上を駆け抜けていくだろう。
一つ、二つと先行する影が頭上をよぎるがイルカは動かず、息を殺した。
部下を囮に使う手は、イルカの本意ではない。
けれど、任務遂行にもっとも確実な方法はこれしかなかった。
逃げ出した部下が先行隊に見つけられたのだろう。
合図があがった。
更に脚を早め、本隊とおぼしき一団が駆け抜けようとした瞬間を狙い、静かに高めたチャクラを解き放つ。
《木ノ葉手裏剣の術》
周囲に降り積もった無数の木ノ葉が手裏剣のように敵へ襲い掛かった。
これは疑似木遁のような術で、威力はないが森の中での目くらましや足止めには有効だった。
忍具も消費しない、使い勝手のいい術でもある。
致命傷にはならないまでも、倍近い追っ手全員に手傷を負わせることはできた。
「くそっ! 待ち伏せがいるぞっ!」
「慌てるな、敵は1人だっ」
write by kaeruco。
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