カカイル2
□カムフラージュ
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無責任に面白がりながら、イルカの目は絶えず3人の姿を追っていた。
普段のサンダルではなく、慣れない下駄を履かせているから参道の敷石につまづかないか、両手を引かれているナルトが転べばサスケとサクラを巻き込んでしまうかも、と心配そうに呟いて。
子供たちには時間になったら茶屋に集合などと伝えているが、演習である以上大人たちは事故のないよう見守る責任があった。
なにしろ下忍ルーキーの中でも最も人騒がせで事情のある子供が揃っているのだから、とても野放しにはできない。
さすがのカカシも衣装の調達や監視はともかく、子供たちへの着付けやら万一の場合の一般人らしい対処は心許なく、今回は中忍のイルカに補佐を頼んだのだ。
輪投げで張り合うサスケとナルトの様子を遠目に見やりながら、子供たちに見咎められぬよう2人は参道を外れて歩き出す。
カカシの容貌は半分以上を隠しているせいか───多分、素顔であったとしても、衆目を集めてしまう。
気配を消して人混みを歩けば行き交う人が気づかないまま衝突してくるので、なるだけ人気のない場所を歩かなければならない。
だが、人気のない場所というのは、とある目的を持つ人々が集うもので、正直言って素通りするだけであってもとても居たたまれない。
「あー、変化で髪の色だけでも変えれば良かったですかねー」
そうすれば、もっと子供たちに近づけただろうし、演習後の確認にかこつけ2人で露店を冷やかすこともできた。
なんて、場の空気を誤魔化すように、冗談めかしてカカシがボヤく言葉を、イルカは否定した。
「なに言ってるんですか。演習、なんですよ」
新米の担当上忍にとっても。
そんな言葉が透けて見え、カカシは決まり悪そうに後頭部を掻く。
「……そーでした」
「だいたい、あいつらが大人しく夜店を回るだけで済むとは思えません」
アカデミー時代、何かをやらかすのはナルトだったけれど、サスケもサクラも問題児だったのだ。
頭が切れ、知識がある分、ナルトより質の悪いことを仕出かした事もある。
だから絶対に、目を離してはいけない。
今も、くじ引き飴で大玉を一発で引き当てたナルトに対抗してか、サスケが苛立ちも露わに5本目を引こうとしている。
「それに……」
少し参道に寄って屋台の隙間から覗き見れば、甘い物が苦手なサスケに引いた飴をねだる振りでサクラが場を納めていた。
ナルトが黙っているのは、脚を抓られてでもいるせいかもしれない。
とにかく、彼女がキレて『内なるサクラ』が表立たない限り、騒動にはならないだろう。
子供たちの顛末を見届けつつ、拗ねた口調でイルカは告げる。
「オレだって、任務中、なんです」
「……へ?」
都合の良い耳には、演習とか任務で紛らわさずに素直に誘いやがれ、という本心が聞こえた。
ついでに、ヘタレめという悪態まで聞き取ったカカシは言葉をなくす。
不意に、遠くから夜空を割いて火薬玉が打ち上げられる甲高い音が響いた。
山間に反響して断続的に3度、軽い破裂音が轟くと参道を行き交っていた人々は足を止めて顔を上げる。
祭りを彩る花火が次々に打ち上がると、より見やすい場所を求めて大勢が見晴らしの良い高台へと流れていく。
一斉に動き出した人波に揉まれ、バラバラにはぐれてしまいそうな子供たちを放っておくことはもうできない。
イルカは混雑する人の間をするりと抜け、まずナルトの腕を掴んだ。
次にサクラ、最後にサスケを確保して露店の脇で一息つかせてやる。
子供たちも恩師の合流を驚きながら喜び、人が減ったら改めて一緒に露店を廻ろうと言い出し始めた。
だがそうなれば、演習の課題はご破算になる。
けれど、今日だけはそれもいいか、そう独り言てカカシも参道を突っ切って彼らの元へ向かう。
計画は完全に見抜かれていた。
ならばまた、別の形で挑むことにしよう。
その時こそは勇気を振り絞って2人きりで、と請うのだと心に決め、夜空に咲き誇る花火を見上げて歓声を上げる部下の頭を撫でてみた。
あの人がいつもしているように。
【了】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2014/04/16
UP DATE:2014/04/19(mobile)