Nessuno Vive Per Sempre

□小さな贈り物
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小さな贈り物
〜 ヒバ誕2014 〜





 その日は休日、それも大型連休の最中であったけれど、並盛中学の風紀委員長はいつも通りの時間にバイクで登校してきた。
 彼───雲雀恭弥にとって学校とは就学の為に通わされる場所ではなく、自らの支配する地域の拠点である。
 よって、休日も祭日も関係がなかった。
 むしろ騒がしい群れが校内にいない、普段より書類仕事の捗る日という認識なのではなかろうか。


 
  



 我が道を突き進む割には秩序を重んじる雲雀は所定の駐輪場にバイクを停め、職員用の通用口から校内へ入ろうとし、視線を感じて足を止めた。

 見上げた先、少し離れた高層マンションの屋上に、見覚えのある白い猛禽類が1羽止まっている。
 雲雀に不快な存在を想起させる色違いの双眸と視線が交錯した。
 途端、早朝の空を白い梟が滑空していく。
 まるで獲物へ襲い掛かるように。
 まっすぐ、雲雀を目掛けて。

 やはり、あの男が憑依していたかのと考えるまでもなく両手に馴染んだ得物を握り、目前に迫る猛禽類を迎え撃とうと雲雀は身構える。

 だが白梟は大きく羽ばたいて急制動をかけると、大空へ舞い上がっていく。
 代わりに、鉤爪で握っていた何かを投下して。

「……な、に?」

 いくら人工的に造られた匣兵器だとしても、動物の本能も備えている。
 猛禽類が獲物を落とすなど考えられなかった雲雀は、白梟が投下した物を思わず受け止めていた。

 それは掌と変わらぬ長さで、幅も厚みもない、軽い紙袋だった。
 触れた感覚からすると、中身は携帯ストラップのような物らしい。
 紙袋の下部に捺された店名のスタンプや、折り返した口に貼られた封緘紙は並盛商店街にある雑貨店のものだ。

 理解不能なのは、それをあの白梟がなぜ雲雀の元へと持って来たのか。

「……落とし物?」

 小首を傾げ、訝しげに呟く雲雀の問いに答える者はいない。

 
 
  



 今朝の出来事は未だに不可解であったけれど、雲雀恭弥の午前中は副委員長の草壁によって届けられた書類の処理で静かに過ぎていった。
 一応、多分───本人が自称しているから───中学生の身でありながら並盛という一つの町の支配者である彼は、この町での雑多な申請への許可やら財務関連の承認といった業務を請け負っている。
 彼はそうやって並盛の秩序を守り、程々に発展させていこうとしていた。

 ただ気に食わない群れを見つけては咬み殺し、暴力と恐怖で住民を抑圧する世紀末覇者ではないのだ。

 本日は休日ではあったが活発な部や同好会からは活動の申請があり、許可も出しているから日が高くなってくると教師や生徒が数十人、登校してきている。
 もちろん風紀委員長の根城である応接室近辺で騒ぐ者はいない。
 それでも校庭からは意味不明な掛け声が聞こえ、校内には様々な楽器が奏でる不協和音が響いている。

 立夏───暦上では夏となった5月。
 
 
write by kaeruco。
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