Nessuno Vive Per Sempre

□小さな贈り物
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 日当たりの良い所では汗ばむ陽気で、応接室も風が抜けるように窓が開け放たれていた。
 その窓の下から、なにやら物音を感じた雲雀はサインをしていた手を止めて窓を注視する。
 しばらく見ていると、またもや見覚えのある猫が現れた。
 窓枠に胸を張って得意そうに座る姿から察するに、どうやったかは分からないが壁を伝って登ってきたらしい。

 この猫も匣兵器であるのだが、なぜだか本来の主には懐きもせず爪を立ててばかりいるのに、雲雀の前では文字通り借りてきた猫のごとく大人しいので別にその辺りに居るのは構わない。
 だが持ち主の方が何かと騒ぎを起こしては爆発物をバラまき、雲雀を見つけては吠えかかる躾のなっていない犬のような人物だった。
 正直、相手にしたくない。

「君、そこでなにしてるんだい?」

 答えなど返るはずもないのに、雲雀は窓枠にしゃなりと座る猫に話しかけた。
 立ち上がって窓から校庭を見渡し、この猫を追っているだろう駄犬の姿を探す。

 ふと、普段なら猫撫で声で媚びてくる猫が一声も鳴いていない不自然さに気づき、よくよくその姿を見てみた。
 猫は、見覚えのある紙袋を咥えていた。
 なるほど、これでは鳴くことはできない。

 ただ問題は、その紙袋。
 今朝、あのいけ好かない男が使う猛禽類が落としていった物と同じ店だ。
 見た目の大きさや重量感から猫缶でも入っていそうだが、雑貨店で動物用とはいえ食品を扱う許可は出していない。
 となれば、これは雑貨なのだろう。

「君、なんでそんな物咥えてるの?」

 雲雀が訊ねれば、猫は受け取れと言わんばかりに顎を突き出す。
 いつまでも咥えさせておくわけにもいかず、紙袋の底に手を添えてやれば心得たものですぐに口を放した。
 これでお役御免とばかりに一声鳴き、猫は身を翻すとひとっ飛びで校庭に下り立って駆け去っていく。

 とうやらあの紙袋を雲雀へ届けに来たらしい。
 今朝の猛禽類と同様に。

「……なんなの?」

 訳が分からない、と雲雀は受け取った紙袋を執務机に置いた。


 
  



 昼になって、午前中で部活動を終えた生徒たちが帰宅し始め、校内は再び静けさを取り戻しつつあった。
 そろそろ昼食にしようか。
 そう雲雀が考えた頃合いに、普段は人気のない応接室へと向かう廊下を足音高く近づいてくる者がある。

「ちーっす!」

 ノックも入室の許可を得ることもせず、応接室の扉を気安く開けたのは山本武だった。
 野球部の練習着のまま、汗拭き用のタオルを首にかけた姿で無防備に顔を突き入れ、にかっと笑う。

「お、いたのなー」

「なんの用?」

「ん? や、オレじゃなくってさー」

 片手にバットを持ったまま、笑顔で足元に向かって、行けと一声。
 たたた、と軽やかな足音を立てて雲雀へと駆け寄ってきたのは柴犬。
 これも匣兵器なのだが、先程の猫と同様に口に紙袋を咥えている。
 見た目には大人の握り拳程の球体が入っていそうな、並盛商店街にあるスポーツ用品店の袋だった。
 それを届けに来たのか、雲雀の足元にお座りの体勢で柴犬は待つ。

「……なんなの?」

 今朝からの事は彼らが結託しての事か、と唯一姿を見せた山本に問う。
 返答次第では───あの南国果実だけは理由に関わらず、関係者をまとめて咬み殺す気で。

「どういうつもり?」

「んー? オレは小僧に言われて来ただけだから、どういうつもりかなんて分かんねえのなー」
 
 
write by kaeruco。
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