カカイル
□君は僕の輝ける星
8ページ/15ページ
君は僕の輝ける星
4 THE 絶望行進曲
〜 The Despair March 〜 それは3月も下旬、金曜日の夕方。
木ノ葉バレエ・アカデミーに、あの男が帰ってきた。
一昨日までパリ公演に参加していたはたけカカシが、1月半ぶりに。
「よお、久しぶりだな」
カカシがアカデミー・オフィスへ入ったところで、出入り口の脇に設けられた狭い喫煙スペースに体躯を押し込んだ髭面の男と鉢合わせた。
互いに片手を上げて挨拶を返す。
「Ah〜 Long time no see, Asuma〜
[あー。久しぶりー、アスマー]」
「オメエ、頭はまだ向こうかよ」
盛大に煙を吐き出してアスマが指摘してやれば、カカシも気付いて頭を切り替えた。
「ああ? はいはい。あんがとね〜」
「っとに、面倒なヤツだな」
日々、世界を飛び回っているカカシは、久しぶりに日本に帰ってくると日本語を忘れている。
世界中たいがいの国で英語かフランス語が通じるせいで。
だから彼と親しいものが、たまに日本に帰ってきたカカシにツッコミを入れてやるのだ。
「ま! それはお互い様ってことで〜」
「オメエは迷惑かけっぱなしだろーがよ」
吸いきったタバコを吸殻入れに放り込み、これで用は終わったとばかりにアスマは立ち去ろうとする。
「じゃ、いい金曜日を〜」
聖金曜日だし、と付け加える。
「オメエ、クリスチャンだったか?」
「いんや。でもクリスマスもイースターも楽しむべきデショ?」
小首を傾げて聞いてくるカカシを可愛くねえからやめろと制したアスマは、クリスチャンでない日本人が派手にクリスマスを満喫している様を思い浮かべた。
「そりゃ、そうだがよ」
クリスマスはな、というアスマの呟きはカカシに届かなかったようで、彼は巨大な荷をオフィスに預けてアスマに手を振った。
「んじゃ、オレ行くトコあっから〜 TGIF!
[良い金曜日を!]」
「あ、おいっ」
去っていく軽やかな足取りは流石、世界的バレエダンサーといったところか。
「行っちまいやがった」
アスマは新しいタバコを取り出し、火をつける。
そこへ、同僚の紅が顔を出した。
「カカシ、今日帰ったのね」
「ああ」
実はカカシは日本の常識や風習に疎い。
かと言って、その他の国では完璧なワケでもない。
ほどほどに広く、浅い知識の持ち主なのだ。
なので、きっとカカシは知らない。
クリスマス程、イースターという行事が日本に浸透していないことを。
そして、カカシがスルーしてしまった日本の風習を、結構気にしていた人物がいることを。
「ずいぶん浮かれてイルカちゃんとこに向かってたけど……」
「SIF
[悲惨な金曜日]通り越してBlack Monday
[暗黒の月曜日]にならなきゃいいがな……」
カカシ不在の出来事を思い出し、2人は同時に人の悪い笑みを浮かべた。
カカシはレッスン室へと向かう廊下の途中で、目指す人物の後姿をみとめて走りよる。
「イルカ先生っ!」
「カカシさん、お久しぶりです」
write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]