カカイル

□天使のような悪魔
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 さらにその下には、送信ボタンまであった。

「……なんなんだよ、コレ……」

 しばし、じっと眺めていたが、ふと先程までの憤りが蘇ったのか、一気に悩みを打ち上げていた。

『女なんか、嫌いだ』

 そう、呟き、震える指先がマウスをクリックする。

「へえ。じゃあ、どうしましょうか?」

 突然の他人の声に、振り返る。

「こんばんは。悪魔です」

 そういって爽やかに笑う、黒服の男が立っていた。

「普通、男性のとこにはサキュバスが来るんですけどね。あなたは女性が苦手だってことで、特別にオレが派遣されました」

 まるで執事かホスト。

 黒いスーツにダークカラーのシャツ。

 ボタンやカフスは黒いが、赤く煌く石が1つ1つに使われている。
 まさか本物のルビーではないだろう。

 華やかに結ばれたネクタイも黒で、手袋も黒。
 長めの黒髪はうなじのあたりで黒いリボンがまとめている。

 だが、なにより男を特徴付けているのは、鼻筋を渡る一文字の傷痕。
 なにか鋭利なもので迷いなく引かれた一筋は、精悍な男の表情によく似合っていた。
 
 ぼうっと見惚れたように彼に魅入ってしまっていたが、カカシはあることに気付く。

「あんた、悪魔って、言った?」

「はい。悪魔ですよ、カカシさん」

 さらりととんでもないコトを肯定されて、頭を抱えた。
 これぞまさしくOTL状態、などと考えてしまう。

 けれど、そんな場合ではない。

「あんた、なんでオレの名前知ってんの? それに、どうやって入ってきた?」

「呼ばれましたので。オレたちは呼ばれれば、何処にでも行けますし、何でも分かるんですよ」

「そんな都合のいい話があってたまるかっ」

「そう言われましても、そうなっているんですから」

 暖簾に腕押し。
 糠に釘。

 そんなことわざが思い浮かぶ会話に、カカシは脱力感を覚えずにいられない。
 この分では、何を言っても悪魔だからとかわされるだろう。

「まあ、そんなに悩まれることはありませんよ。オレはあなたに、あなたの悩みを解消する為に呼ばれたんですから。事が終われば、帰ります」

 穏やかに説明してくれる涼やかで耳障りのいい声。
 なのに、どこか子供を宥めすかしている風に聞こえる。

 じとりと睨み、カカシは僻みっぽい声を出した。
 
「……オレは、あんたなんか呼んでない」

「いいえ。呼ばれましたよ。女が嫌いだって」

 書き込みしましたよね、と小首を傾げてモニターを指し示されれば、何も言えなくなる。
 確かにカカシは、あの得体のしれない画面に悩みを書き込んで送信した。

「だからって、なんで、よりにもよって悪魔なんか……」

 こんどこそカカシはがくりと膝をつき、文字通りOTLな状態に陥った。

 視界の端に、悪魔が黒服のように片膝をつくのが見えたが無視を決め込み、顔を反らす。

「とにかく、オレはあなたの悩みを解消するためにきたんですから、そんなに嫌わないでください」

 けれど、囁く声と優しく頬を撫でる手が心地よく、ついそちらを見てしまった。

 すごく近くに悪魔だという男の顔がある。
 いや、更に近付いていた。

「……んっ……」

 唇に何かが触れ、驚きに叫ぼうと開いた隙間に舌が入り込んでくる。
 キスされていると思い至った頃には、互いの舌が絡まりあっていた。

「ふぅっ」

 上あごを舐められるたびに、ぞくりと背筋が痺れるような感覚が走る。
 
 
write by kaeruco。
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