カカイル

□LOVELACE
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 担当の上忍師も口はよくなかったが、部下1人1人を見てくれる人で、3人の下忍も信頼している。

 低ランク任務で互いの長所短所を見極め、チームとしての動きもだいぶ固まった。

 里の外での長期任務や戦闘も経験し、今年こそ、この班で中忍試験へ挑むのだと意気込みも新たに張り切っている。

 今日も農家のお手伝いという任務だったが、これが明日に繋がるのだと思えば楽しかった。

 受付所の前で解散を言い渡されると、仲間たちは手を振り合い、それぞれの家路へ散っていく。

「じゃあなー、イルカー」

「ばいばい、イルカくんっ」

「おう! また明日なーっ!」

 商店街へ寄って買い物をしなきゃいけないという理由で、イルカが真っ先に駆け出していく。

 早く家に帰りたいわけではない。
 家族の元へ帰っていく仲間たちを見送るのが嫌だった。

 買い物だって口実に過ぎない。
 買い置きなら1日や2日、買い物しなくてもいいくらいにある。

「……どうせ、1人だしなあ」

 そう呟いてみる。

 1人でいると独り言が多くなるというのは本当らしい。

 だが、今日に限って返事があった。

「へえ。そりゃ好都合」
 
「誰だっ!」

 殆ど反射的に声のしたほうへ体が向き、イルカは構えている。

 だが相手の姿はなく、気配も掴めていない。
 薄暗い路地を視線が彷徨う。

「どこ見てんの?」

 すぐ背後からした声に振り向こうとして、動けなかった。
 イルカは自分の体が僅かに震えていることに気付く。

 こんなことは、初めてだった。

「……くっ」

「へえ、意外にやるね」

 歯噛みして、なんとか金縛りから脱しようとするイルカの首を細くしなやかな指が締め付ける。

「でも、あんまり抵抗しないでよ。うっかり、殺しちゃいそうだからさ」

 物騒なことを言う暢気そうな声は、耳のすぐ後からしている。

 イルカは何とかしてこの状況を脱しようと、せめて相手を知ろうと首を巡らせた。
 すると、それまで押さえつけていた手指が緩み、体が回る。

「えっ……ぐっ……」

 鳩尾に鈍い痛みを覚え、揺らいでいくイルカの視界には闇が広がっていった。
 落ちていく意識と体は何かが自分を支えるのを感じる。

 だが、白々しい街灯に照らされた銀色に輝くモノを最後に、ふつりと記憶が途切れた。

───……今夜って満月、だったっけ……
 
 ぼんやりとそんな事が思い浮かぶ。


 


 そして次に腹に鈍い痛みを覚え始め、次第に覚醒していく。

「……痛っ!」

 急に鋭くなった腹部の痛みに、身体を丸めてイルカはうめいた。

 それと同時に記憶が繋がり、恐る恐る眼を開けて自身の今居る場所を確認しだす。

 まず目に入ったのは赤い布団。
 その先に真新しい畳と障子の立てられた腰窓が見えた。

「目覚めた? イルカちゃん」

 真上から降ってくる声に一瞬、身が竦む。

 だがすぐに気を持ち直し、イルカは挑みかかる眼で相手を見据えた。
 しかし、同時に発しようとした言葉は舌に乗ることもなく、飲み下される。

 イルカの目に飛び込んできたのは、動物の面。

 それは木ノ葉隠れの里の忍びの中で、暗部と呼ばれる者たちだけのものだ。

 暗部とは通称で、正式には暗殺戦術特殊部隊という。
 彼らは素性を隠して極秘裏に動く、里の精鋭たちだと言われている。

 だが、多くの忍びにとってその実体は掴み所がなく、どちらかというと畏怖すべきものだ。
 
 
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