カカイル
□LOVELACE
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緊張し切った状況から突然放り出され、惚けて転がったままでいたイルカの枕元に跪くと、両手首をきつく締め上げていた額当てを解いて痛む腕を撫でながら囁いてくる。
「……帰ってきたら、ね」
さっきまでイルカを弄ぼうとしていた手付きや口調とは違う、優しく労るような手だった。
「おやすみ、イルカ」
そう告げて、暗部の男は姿を消す。
遠くから座敷で奏でられる音曲が聞こえるけれど、部屋に他人の気配はない。
「……ふう」
ため息を一つ吐くと、イルカは気が抜けたのかそれとも術にかけられたのか、そのまま眠りに落ちて行った。
「ん……」
柔らかな日差しと長閑な小鳥のさえずり、そして遠くから聞こえる物売りや女の声にイルカは目を覚ました。
「……あれ?」
起き上がって見渡しても、自分が何処にいるのか把握できない。
分かるのは、自分の部屋ではないことだけ。
「……ここ、どこだっけ〜」
寝ぼけた声で呟きながら、ゆっくりと覚醒していく。
思考が回り始め、記憶も蘇ってきた。
「あ」
昨日──多分だけれど、昨日のことだろう。
任務が終わって解散したところで、暗部の男に拉致されたのだ。
廓らしきこの場所で気付いて、いやらしいことをされかけたところで暗部に任務が入り、とりあえず未遂である。
でも、帰ってきたら、と言い置かれた。
正直、何をされるのかは分からない。
いやらしくて恥ずかしいことなんだろうな、とは思うが具体的な事は何一つ考えつかなかった。
ただ、一つ。
「……逃げれば、良かった……」
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2005/09/24〜2012/06/24
UP DATE:2012/07/07(mobile)