カカイル

□LOVELACE
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 まだ下忍のイルカにしても、暗部というものがなにか仲間たちから聞くものの、これまで一度も目にしたことのない存在だった。

 なのにそれが、今、目の前にいる。

「ああ、驚いてる?」

 面越しに囁かれる暢気そうな声は、当て落とされる前に聞いたものだ。

 くすりと笑う空気。

 酷く希薄な気配と威圧的なチャクラ。
 そして覆い被さっている身体の感触。

 それらがイルカを世界から隔絶している。

 身体を丸め、首だけを上向けていたイルカの足を、何かがざわざわと撫でていく。
 それが暗部の手だと気付き、イルカは吼えた。

「なにすんだよっ!」

 だが払い退けようとした手は動き出す前に掴み取られ、赤い布団に縫いとめられる。

「何って……言ったほうが、いい?」

 そう囁いてくる声は、耳のすぐ近くにあった。

「ここがどんなところかは、判るデショ?」

 そこで押し黙ると、周囲からの漏れ聞こえる声や物音がイルカの耳にも届く。

 三味線や太鼓の音に長唄、それから女の嬌声。
 それと、押し殺したような吐息。

 そんなものを聞かされなくても、寝かされていた赤い布団で分かっていた。
 
 こんなものがある場所のことは、アカデミーでも教えられる。
 目にしたのは、初めてだったけれど。

「だから、泣いても叫んでも、誰も助けてくれないよ」

 獲物をいたぶる楽しみに酔い始めた声で、暗部は片手でイルカの両腕を封じたまま、また身体を撫でだした。

「仕込むんだよ。イルカちゃんの身体を」

「……しこ、む?」

「そ。この足の付け根からよだれ垂らしてさ、オレにぶち込まれたら自分で腰振って搾り取る、カワイイ身体にすんの」

 そう言って尻から足の付け根、太ももを得体の知れないものが這い回る感触に、イルカは顔をしかめる。

 けれどそんなことにはお構いなく、暗部は饒舌だった。

「ああ、でも、上の口にもご奉仕してもらいたいなあ」

 首筋から上ってきた手が頬を渡る傷を辿った時、鉤爪のついた手甲が見える。

 だから感触が変だったのかと、どこか冷静な自分がイルカには信じられなかった。

「後だけで達けるようになってもらうのは当然だけど、胸だけでもメロメロになるようにもしてあげる」

 声や口調だけなら何か楽しい遊びの相談でもされているようだ。
 
 けれど、その内容をイルカは殆ど理解できていない。
 実は、基本的な性知識だってちょっと怪しいくらいなのだ。

 ただ、いやらしいことを言われ、されそうになっているのだということだけは、分かる。
 そして自分の知らないことを、更には望んでもいないことを、一方的に押し付けられているのだとも理解した。

 それが、イルカには耐え切れず、怒りに身体が震えだしている。

「なに、怖いの?」

 それを、恐怖と勘違いしたのだろう。
 ますます嬉しそうに、暗部はイルカの顔を覗き込んでくる。

「……ふ」

「ふ?」

 この状況で何を言い出すのか、興味でなくただの侮りで暗部は促す。

 小憎たらしく、小首を傾げて。


「ふざけんなっ! この色情魔っ!!!」


 ぶっつりと切れた勢いを勝って、イルカは自分の上に覆い被さっていた暗部を投げ飛ばした。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2005/09/24
UP DATE:2005/10/10(PC)
   2008/12/21(mobile)

 
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