カカイル

□カカイル100のお題
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カカイル100のお題
 
002 甘い



 授業の後の受付業務を終え、イルカは教員室へと戻ってきた。

 既に窓の外は闇に包まれている。
 アカデミーに残っているのも、彼の他は遅番か宿直の者ぐらいだ。

「さて、さっさと片付けちまうか」

 袖を捲り上げて椅子に座り、机の上に積み重なった書類袋の山からテストの束を引き抜く。

 イルカは気合を入れて朱筆を取った。
 子供たちの回答に丁寧に朱を入れつつ、1枚1枚に点数を書き込んでいく。
 もはや手馴れたもので、1学年3クラス分、90枚の答案は見る間に採点されていった。

 けれど、これで終わりではない。
 確認をし、成績表へ控えてねばならなかった。

 言い訳がましいが、一度、頭を切り替えてからの方が間違いも少ないし、効率も上がる。
 そう考え、イルカは立ち上がった。

「一息、入れるか」

 伸びをしながら奥の給湯室へ向かい、ポットのお湯を確認する。
 分量も湯温も充分。
 
 茶筒と急須、そして来客用の湯飲みを一つ戸棚から取り出して、背後へ声を掛けた。

「カカシ先生も如何ですか?」

「あー、気付かれてましたかー」

 イルカの机の隣りに、いつの間にかはたけカカシが座っていた。
 そろえた膝の上に両手をつき、背筋を伸ばして行儀良く。

「途中から、ですけど……」

 イルカは、まるで教員に呼び出された生徒然としたカカシの姿勢を微笑ましく思う。

 だが、そんな気持ちはおくびにも出さず、振り返って湯のみをかざしてみせた。

「どうします?」

「いただきます」

「はい」

 自分用の湯飲みと来客用の湯飲みを並べ、出来る限り丁寧にいれた緑茶を注ぐ。

 とは言っても普段、教員たちが飲んでいる安いものだ。
 色も香りもあったものではない。
 今更、来客用に煎れ直すのも勿体無いので、そのまま出してみた。

「粗茶ですが」

「いえいえ、ありがとうございます。いただきます」

 常識的な謙譲表現も、素直に礼を言われると僻みっぽくなる。

 イルカも自分の椅子へ座り、カカシへ向き合った。

「それで、どのようなご用件で?」
 
「ま、父兄面談のようなもので」

「父兄……ですか?」

「ナルトとサスケの」

 家族のいない2人と、この数年で一番長く過ごしていた大人がイルカだった。

 ただ同じ教室で1日の数時間だけであったけれど、彼らの成長も失敗も見てきている。
 カカシは、その情報が欲しいのだろう。

 しかし、イルカの残業の合間に訊ねてくるようなことでもない。
 必要なら、イルカを呼び出して聞き出せばいいことだ。

 意外にあの3人を気に入っているか、それとも自分の首検分かとイルカは考える。

 何日か前に授業を覗きにきていたが、あれも様子見だったのかもしれない。
 ならば、素直に応じてやるしかない。

「……では、なにを話しましょうか?」

「そう構えることじゃなくってですね。あの2人はアナタから見てどうでしたか?」

「ナルトは見た通りのヤツです。良くも悪くも」

「はあ」

 イルカにとっても、具体的なことは言いづらい子供だ。

 けれど、あの子はあれ以上でも以下でもない。
 見た通りをそれぞれが判断するのが、一番いい。

 何しろ、あの子をきちんと見てきた大人が少ないのだから。
 
 
write by kaeruco。
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