カカイル

□カカイル100のお題
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カカイル100のお題
 
003 ナミダ



 待機中に緊急の救援要請を受けたカカシが大急ぎで駆けつけた現場では、木ノ葉の忍たちが倍以上もの敵忍に囲まれて激しく交戦していた。

 隊長は見知った中忍。
 左右についた年若く経験も浅い部下へ指示を与えながら、自らも最前線で一歩も退くことなく刃を振るっている。
 まだ少年とも言えない、幼い男の子を一人背負ったまま。

 けれど、遠目にもその子供が事切れているのは明白。
 彼自身だけでなく部隊全員をも危険にさらしたこの状況で、既に死んだ者を見捨てずに守ろうとする甘さが癇に障って無意識に舌打ちしていた。

 戦闘の騒乱に掻き消されているはずの舌打ちに、それまでただ目の前の敵と周囲の部下にだけ集中していた彼の意識が一瞬、カカシへ向く。
 普段、全く彼から感じることのない剣呑な視線に込められた確かな害意に総毛立つ。

 しかし、悪い気分ではない。
 むしろ、先ほど覚えた甘さへの憤りを帳消しにするだけのものがあった。
 
 自分に興味を抱かせた見返り───にしては安い働きになるが、彼の隙につけこもうと動いていた敵を迎え討つ。
 四方から飛来する無数の手裏剣を両手に握ったクナイで弾き、彼の隣に降り立つと味方へ退散を呼びかけた。

「……ここはオレが引き受ける。全員、里へ向かいな」

 大声ではなかったが、その場にいた者は皆、カカシの言葉を聞いた。
 突如現れた新たな忍の姿に───それが諸国に勇名を馳せるカカシであったことに味方は奮い立ち、敵は浮き足立つ。

 場の空気が木ノ葉優勢と変わったと感じ、善戦した同胞の退路を確保すべくカカシは印を組む。
 そうしながら、未だ傍で刃を握って敵を睨んでいる彼を促した。

「……退きな。その子は置いて」

「いいえ! この子は、連れて帰ります」

 甘い感傷に浸り切った拒否の言葉に今度こそ怒りで血が沸き立ち、同時に思考が凍てついていく。
 既に息絶えた護衛対象───失敗した任務より、仲間を優先すべきだと詰りたかった。

「……もう、死んでる」

「それでも! この子を、連れ帰るのが、私の任務です!」

 最初から生死は関係なかったのだ、と彼は悔しげに告げる。
 この子供が誰の手で弔われ、何者が後見人であったのか示す為に必要なだけの躯なのだと。

「それに、この子が帰る事を待ち侘びている方には、見ず知らずの忍の命など、物の数ではない!」

 けれど、彼自身は隊を預かる者として部下は守ろうとしていた。
 無傷な者などいないが、それでも全員が自力で里まで戻れそうにないという程ではない。

「だから、ねぇ……」

「アナタが救援に来てくれたのだから、どちらかを諦める必要はなくなった!」

 だから、嘆くより憤るよりもすべきことがあるのだ、と泣きそうな顔でイルカは言い切った。

 
ナミダ───
───泣く前にすべきこと 

【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2005/08/16
UP DATE:2015/10/31(mobile)

 
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