カカイル
□カカイル100のお題
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カカイル100のお題
004 距離 夜更けという事もあってひと気の絶えた木ノ葉病院の待合室の片隅に腰を落ち着け、任務報告書に記入しながらイルカは負傷した部下たちの治療が終わるのを待っていた。
治療の終わった者から解散と、ついでに任務後に与えられる規定の休暇に傷病休暇が追加された事も告げていく。
あとは今回最も重症だった───それでも自力で里へ戻れない程ではなかった最後の一人を待つのみだ。
日付を跨ぎそうな時計をみやり、全員のカルテを添付した報告書を受付に持ちこむのは明日の朝でも、と考えたがこのまま提出に行くべきだろう。
今回の任務は心身共に酷く疲弊したからどうせなら起きる時間を気にせず眠りたいし、うっかり寝過ごして夕方の混み合う時間帯にとなっては同僚たちに申し訳ない。
それに明日になって多少疲れが抜けている時にちょっと忙しくしてたら、思わず休暇を潰して手伝ってしまう可能性がある。
───大概、オレもお人好しだ……
想像に容易い同僚とのやり取りを思い浮かべれば、苦笑が漏れた。
だが同時に、忙しく立ち働いて気を紛らわせたい気持ちも否定できない。
特に今回のような、後味の悪い任務に就いた後では。
「隊長、お待たせしましたっ」
腕を吊って戻ってきた部下を労い、休暇の延長も告げて自宅へ帰らせる。
担当の医療忍から部下たちのカルテをまとめた書類を受け取ってイルカが病院を出たのは、既に日付の変わった時間だった。
これから深夜受付に報告書を出し、自宅に戻って汚れた装備を手入れして風呂を使い、と予定を目算すれば眠れるのは夜明け間近。
思わずため息も出るというものだ。
「……いま、おかえりですか……」
突如、暗がりから掛けられた声に一瞬、身構える。
しかし、聞き覚えのあった声だと判断し、緊張を解いて問い返す。
「いえ、これから受付に。カカシさんこそ、こんな時間にお帰りですか」
「……ま、そんなとこです……」
今日───日付が変わってもう昨日になるが、イルカが率いた部隊の窮地に駆けつけてくれたのがカカシだ。
敵を蹴散らして共に里へ帰還した後、確か再び待機所に戻ったはずだが、とこんな夜中に病院の前で鉢合わせた事を不思議に思う。
あの後、また何かしらの任務に出て怪我でもしたのかと様子を伺うけれど、どこかを庇っている仕草も血の臭いもない。
では、偶々だろう、とイルカは詮索をやめた。
「では、オレはこれで」
お疲れ様でした、おやすみなさい。
そう挨拶し、立ち去ろうとしたイルカは腕を掴まれて立ち止まる。
「……なん、でしょうか?」
多分、とっさだったのだろう。
暗がりであっても判るくらいに唯一覗いている右目を見開いて、カカシの方こそが驚いていた。
イルカを引き止めるという、自身の行動に。
「……えっと……」
任務中の判断は早いのに普段は少し間を開けて話すのだな、と益体もつかないことを考えながらイルカは彼が言葉を紡ぐのを待つ。
「……あー、任務中は、その……スミマセン、でしたねぇ……」
「いいえ」
いま、あの任務を蒸し返されるのは嫌だったイルカは、何に対する謝罪なのかとは問わずに流した。
「私の方こそ。お陰で部隊に損耗もなく済みました」
ありがとうございました、と深く一礼し、頭をあげた流れで一歩退く。
もしも、なんて考えたくないのだ。
───あの時、カカシが駆けつけなければ……
───もしくは、最初からカカシが部隊を率いていたら……
そんな想像に、自分と彼の能力や経験の隔たりを羨むなんて今更過ぎる。
だから今はこれまでに、どうか放っておいて欲しかった。
「遅い時間ですし、気をつけてお帰りください」
それだけを言い捨て、イルカは足早に立ち去った。
距離───
───もしも、すらあり得ない
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2015/10/31
UP DATE:2015/11/01(mobile)