カカイル

□カカイル100のお題
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カカイル100のお題
 
006:酔い



「しつこい!」

 書類記入の手を止めず、イルカは同僚たちからの追及を断ち切った。

「多くの人間が出入りする受付で噂話なんて里中に吹聴して回るのと一緒だって解ってるだろうが。無責任に、根も葉もない事を言わないでくれ」

「そうは言っても、なあ……」

「別に誹謗中傷してる訳じゃねえしよお……」

 それでも食いさがる同僚たちに苛つき、少々乱暴に筆を置いたイルカは顔を上げ、きっぱりと言い切る。

「お前たちの仕事が終わって雑談してるだけなら、オレだって放っておくさ。だけど今は業務中だ! それに、何度も言ったけど、カカシさんとの事だって偶然だって」

「だからさ、なんでそう何度も偶然が重なるのかって……」

「……オレが聞きてぇよ……」

 怒らせていた肩を下げて詰めていた息を吐き出し、額を抑えながらイルカはぼやいた。

 同僚たちの言い分によれば、カカシはイルカが受付に座る時間帯にだけ現れる、らしい。
 ただアカデミー教師と任務受付を兼任しているイルカだ、毎日受付には入れない。
 そんなイルカの不在時にやってきたカカシはまず入り口で足を止め、室内を見渡してから手隙の受付に素っ気なく報告書を出して去るのだとか。
 イルカが居れば淀みなく歩み寄って報告書を提出し、ついでに子供たちの様子だとかその日の出来事だとかを話して行くのに。

「だからさ、お前絶対、カカシさんに気に入られてんだってー」

「そうそう! だからよ、どんな風に気ぃ惹いたのかって、みんな知りたがってるぜー」

 そうは言っても、イルカがカカシと交わす話題の殆どは七班の子供たちについてだ。

「カカシさんでも上忍師は初めてらしいし、オレがナルトらをやたらに気にしてるから、情報交換みたいなもんしか話してねえよ……」

「えー、そんなわけないだろー」

「おい、本当にいい加減にしてくれよ。そろそろ任務報告書の提出で混み合ってくるぞ」

 時計を指差せば、さすがに同僚たちもこれ以上はまずいと気づいたのか慌ててそれぞれの席に戻って途中だった仕事に手をつけていく。
 
 ようやく解放されたイルカもやれやれ、と態とらしくため息をついて置いていた筆を取って書類を再開した。
 しかし集中が切れたのか思ったようには進まず、先ほど繰り返された同僚たちからの問いかけが脳裏を巡る。

───なあ、イルカっていつもカカシさんとなに話してんの?

───あの人ってさ、どんな話題に興味持つんだ?

───だいたい、イルカと話合うのか?

 その答えは、イルカこそ知りたいのに。

 カカシとイルカの接点など、過去に大規模な戦場で直属ではないが上官と部下として共に在った経験が何度かある程度で、ナルトら子供たちを介しての縁しかない。
 同僚たちだってそう知っているからこそ、気になっているのだろう。

 里で屈指の実力者から気に掛けられている。
 それは下位の階級に在る者にとっては己の価値を高める指標の一つであり、たったそれだけでも優越感を刺激するのか。

 そういう意味では、きっとカカシは今や火影に次ぐステータスなのだろう。

 しかし、イルカは一瞬の優越感に酔い痴れるつもりはない。
 一時の熱狂も、いつかは醒める夢でしかないのだから。
 
 
酔い───
───心地よく、いつか醒める 

【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2015/11/26
UP DATE:2015/11/27(mobile)
 
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