カカイル

□ちいろの海
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ちいろの
〜 Seas of Fathomless 〜
 
8 の不安


 うみのイルカは大蛇丸によって生み出された能力者だった。
 他者のチャクラを制御するその能力は3代目火影によって秘匿され、保護された彼は普通の忍として生きていけるような里親に預けられたのだろう。
 かつてのうみの家がどれほど仲睦まじい家族であったかアスマは知っているし、カカシも彼とナルトの様子から伺い知ることができた。

 それなのにあの夜、なんらかの形で少年だったイルカは尾獣の前に引き出され、里親を失っている。

「一体、誰があの時、あの人を連れ出したってんだか……」

 カカシは頭を抱え、アスマは唸る。

「……気に入らねえな」

 誰が、というのはまだ掴めない。
 けれど、何の為にかは察しがついた。

 九尾を制御し、場を治める為。
 それが、里の為だけとは思えないが。
 
「うむ。少なくとも、九尾の時に連れ出した者と、最近になって戦場は送り出している者は別人と考えるべきかの」

 なにしろ、あの夜の出来事は記録も生き証人も乏しく、簡単に詳細を知ることは難しい。
 作戦部にも当時の人員は殆どいない。

 けれど、ここ最近になって活発化した動きを辿れば何かを掴めるだろう。

 それに、今、動いている者は何らかの形でイルカの出生か、あの夜の内幕を知ったのだ。
 証拠となる何かを持っているとみて間違いない。

「村雨ならば父親もワシが下にいた。息子に何か託されていたのやも知れぬ。ならば、ホムラ様に奏上した作戦原本を盾にアヤツを揺さぶるか……」

 アナハの策に、カカシもアスマも頷いた。

 作戦の検証という名目で尋問できれば、村雨の知っていることを探れるだろう。


 


「で、フリダシに戻る……ってな」

 見舞いからの帰り道、盛大に紫煙と共に吐き出されたアスマの言葉に、カカシもウンザリした顔をしながらも足を進める。
 
 急がば回れというけれど、火影とご意見番から話しを聞いて許可を貰い、一旦アスマの自宅で確認をしてから作戦部を訪れ、アナハを見舞って再び火影の所へ戻ることになるとは思ってもいなかった。

「最初に、ホムラ様から奏上書の原本見せて貰ってたら、違ったかねえ?」

「いや、むしろ……」

 より確かな情報を求めて更に遠回りをしていただろう、とアスマは言う。

 2人とも常時の態度から大胆不敵な直感派と見られる事も多いが、それでは忍としては長生きできない。
 経験則に倣い、情報を吟味する慎重派であった。
 咄嗟の判断で動かざるを得ない場面であっても、瞬間的にそれをしているだけで、けっして博打では動かない。

「……だよねえ」

 精神的な疲労を漂わせながらも、ここまでの調査報告に訪れたアスマとカカシを出迎えたのは苦い顔をした綱手だった。
 良くない事態になったのか、と身構えながら途中経過を報告すれば、多少表情が和らぐ。

「うん。お前たちと平行して過去の書類を調べさせて正解だったな」

 そう言って執務机に叩きつける書類の束は、これから2人が調べなければと考えていたホムラへ奏上された村雨の作戦原本。
 
 
write by kaeruco。
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