カカイル

□ちいろの海
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ちいろの
〜 Seas of Fathomless 〜

10 騒の旋律


 里を出てイルカの派遣された任地へと急ぐカカシにアスマとイビキが村雨を確保した報がもたらされたのは、火の国特有の巨木が生い茂る森の木々の合間から国境の岩場が見え始めた辺りだった。
 撤退を装い待ち合わせていた国境常駐部隊へ5代目火影からの新たな指令書を渡し、カカシは更に歩を早める。

 今、北部国境にいる木ノ葉隠れの忍はイルカ1人。
 部隊長によれば、既に打ち合わせた作戦の始まっている時刻だ。
 けれど、カカシの《眼》には、いつか見たあのイルカのチャクラは感じられない。

───どういうことだ?

 綱手に現状を訴えたイルカが村雨に反抗し、作戦にない行動をとっているだろうとは想像がつく。

 だが、味方が誰もいない国境での単独行動では、雲隠れの正規部隊ならまだしも、抜け忍にでも遭遇したら戦闘は不可避。
 隠密行動と言うより、まるでついて来いとばかりにイルカは痕跡を残し過ぎている。

───それが、狙い……とも思えないな

 勿論、手練れの襲撃者がどれほど居ようとも相手が忍であれば、イルカには関係ない。

 ただ、綱手に宛てた密告書で自身が村雨にとって要たる兵器であり、同時に彼にとって最大の弱味でもあると告げていた。
 イルカという存在を取り上げ、良いように使えなくさせれば、村雨は何もできなくなる、と。

 その最も簡単な手段。

───まさかっ

 想像もしたくない、恐ろしい可能性から逃れるように、カカシは大きく跳んだ。
 巨木の森を抜ければ、海岸まで岩場が続く。
 起伏が激しく迷路のように積み上がった岩のせいで見通しが利かない上に、多数の抜け忍が潜伏する地域だ。

 慎重に周囲を警戒しつつ、真っ直ぐに海岸を目指して疾駆するカカシは、届かないと分かっているのに心中で彼の名を呼び続ける。

───イルカ先生!

 彼を、うみのイルカという男を戦争の犠牲──それも兵器としてとか、誰かの不始末で、失いたくはなかった。
 それはカカシの個人的な感情でしかなかったが、多くの同意者と協力者もいる。
 彼らの思いを託されて、カカシはこの地にいる。

「……あれはっ!?」

 不意に視界の端で、岬の突端に立ち上がる人影を捉えた。
 と同時に、そちらへと進路を変更する。

 その人影は、自分へ向けて突進してくる忍の姿に動じることなく、荒れた北の海を背に佇んでいた。
 強い風に結い上げた黒髪をなびかせ、一歩後ろに下がれば暗い海へと落ちる崖の際で、困ったような微笑みを浮かべ待ち構えている。

「イルカ、先生っ!」

 教え子達が親しげに彼へ飛びついていく姿そのままに、カカシはイルカに縋りつく。
 自分が少しでも腕を緩めたら、この男はなんの未練も感じさせず、落ちていってしまう恐怖で力がこもった。

「……まさか、アナタが来るなんて、考えもしませんでした」

 迷子の子供を宥める口調で、穏やかにイルカはカカシをたしなめる。

「カカシさん」

 飛び降りるつもりなんてないですから、離してください。
 
 
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