カカイル
□ちいろの海
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遥か沖にとどまる船を追い散らす術を心得ている者は、いなかった。
「カカシさんなら、なんかあるって思ってたんですけどね」
「あのね。オレだってなんでもできるってワケじゃあないのよ?」
ゲンマの揶揄に、見たことのない術は使えないとカカシが返す。
余裕というか、緊張感に乏しい2人を横目に、アスマは黙って紫煙をくゆらせた。
ふいに、3人の視線が交じり合う。
この小屋へ近付く気配があった。
それも、ここにはいないはずの馴染み深い者。
しばらくして、黙りこんだ3人が見つめる板戸が、軽く叩かれる。
「なんだ?」
「伝令です」
アスマの問いに、覚えのある声が返った。
符丁で本当に味方であることを確認してから、出入り口に近いカカシが戸を引く。
予想に違わず、うみのイルカが立っていた。
「イルカ先生が伝令でしたかー」
機嫌よく出迎えたカカシは、他の2人の様子がおかしいと気付いた。
「ん? どったの、アスマ? ゲンマも」
「まさか、オメエが来るたぁなあ……」
苦々しいうめくようなアスマの声にも、イルカはいつもと変わりなく接してくる。
「お久しぶりです、アスマさん、ゲンマさん、カカシさん」
カカシが初めて部下とした下忍をアカデミーで指導していたイルカは、忍びらしくない──人間臭さくて誰からも好感の持たれる男だ。
もちろん里では、アスマもゲンマも彼と親しくしている。
それなのに、何故か嫌そうに顔をしかめるアスマとゲンマに軽く会釈をし、イルカが1通の書状を差し出す。
「ホムラ様からの命令書をお持ちしました」
「おう」
アスマは受け取った書状を開いて白紙の紙面にチャクラを込める。
墨痕も鮮やかにご意見番、水戸門ホムラの命令書が浮き上がった。
「東部国境海岸方面部隊はこの書状の到着より1両日中に敵を殲滅し、事後処理班1隊を残し至急帰還せよ。尚、伝令うみのイルカは右作戦に協力後、南部に展開する部隊へ合流のこと」
一気に読み終えたアスマは書状を他の2人にも見せるように机へ放る。
「……だとよ」
「ちょっとちょっとっ! なによそれえー」
まるで女学生のような口調でカカシが正直な不満を口にする。
「今まで手こまねいてたのに、急に殲滅なんて無茶デショ?」
「ああ、だからイルカを寄越したんだろうよ」
カカシにアスマが答え、ゲンマもイルカを睨むような目で見ていた。
「イルカ先生、を?」
イルカに対する2人の態度と、言葉の真意を図りかねてカカシは首を傾げる。
「ゲンマ、カカシ。部下どもに撤退準備させといてくれ」
イルカと殲滅戦の策を練るとでもいうのか、アスマは2人を追い出してしまう。
番屋を後にし、潜んでいる部下たちへ命令を伝えにいく道すがら、ゲンマはぽつりともらした。
「あーあ。カカシさんがいっから、イルカの顔は見ねえですむって思ってたんすけどねえ」
「あ? どゆこと? ゲンマ?」
先程のカカシの疑問に答えるような物言いに、カカシは興味を示す。
「カカシさんにゃあ、殲滅戦はないっすよね」
「ああ」
そう言われてカカシは自身の、年齢の割に長い戦歴をざっと思い返してみた。
上層部の意向もあって忍本来の役割より、大規模で長期化した戦線にも最後の切り札的な投入をされていた。
それに目立つ外見があいまって、必要以上に名が残ってしまっている。
またその名を木ノ葉の里はうまく利用もしていたが、カカシは無用に狙われただけだった。
「それが、なによ?」
過去を振り返ったことで、気分の下降したカカシは、ゲンマを睨む。
「昔、アイツの殲滅戦の処理に当たったんすけどねー」
その視線に怯えるでもなく、だが言いにくそうに、ゲンマは咥えた楊枝を揺らめかせた。
「……忍者、やめよーかって、初めて本気で考えましたよ…」
「どーゆーこと?」
「そのまんまの意味っすよ」
ゲンマはそれだけを言い、自分の隊の方へと去っていった。
その後を追う事もできずに、カカシはしばし立ち尽くす。
ゲンマが忍をやめようと本気で思ったという、イルカが加わった殲滅戦の戦後処理。
自分で振っておきながらはぐらかしたのは、思い出すのも嫌なの程のことがあったのだろう。
「一体、なんなのよ」
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
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WRITE:2005/03/01
UP DATE:2005/03/18(PC)
2009/01/02(mobile)