カカイル

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 カカシは殿を行きながら、先行する2人の中忍を観察する。

 すぐ前を行くのは中忍に昇格して3年目という男だった。
 茶色い髪を短くし、額当ての布で覆っている。
 歳はイルカやカカシより幾分若く、階級意識が強いらしくカカシに対して緊張しすぎなようだ。

 その男の前を行くイルカは普段どおりの姿だったけれど、身のこなしや口調からそうではないとカカシは感じた。

───今夜はイルカ先生じゃなくって、一部下ってワケね

 誰にも気付かれぬ、小さなため息を漏らす。

 経験不足からこの隊に配されたもう1人の中忍は、自分の能力に自信があるらしく、カカシに期待をされていると勘違いをしているようだった。
 そして長く中忍でいるイルカを格下と見ているらしい。

 一方のイルカはこの中忍どころか、カカシすらも足手まといと見ている様子である。
 確かに哨戒任務での実績だけならば、イルカは里のエースであった。

 しかし互いを信頼できないのでは、チームを組んでいる意味がない。

───チームワークは望めそうもなーいか……

 カカシは、今夜の侵入者がいないことを願うばかりであった。

「隊長」
 
 移動しながら、聞き取れるギリギリの声でイルカが呼ぶ。

 どうやらカカシの祈りは通じなかったようだ。

「……この先にトラップは?」

「300メートル先内側、外側は250メートル先です。地形は倒木で足元が悪く、視界は開けています」

「接触ポイントもその辺か……」

「先行します。後、お願いします。隊長」

「あっちょっ、イルカ先生っ!」

 カカシが制するより早く、イルカの姿は闇と木々に消える。

 そのスピードは並みの中忍のものではなく、気配の消し方、足運びも完璧だった。

「くそっ! 追うぞ、ついてこれるな?」

「は、はいっ!」

 イルカの能力を忌々しく思いながら、カカシは全速力で後を追う。
 この中忍が遅れることは見越していて、むしろ置いていくつもりだった。

「はぐれたら、アスマに接敵を知らせろ!」

 一段と速度を上げ、カカシはイルカを追う。


 


 トラップ地帯を挟んだ開けた場所で、戦闘が始まっていた。

 敵忍は6人。
 中には上忍も含まれているようで、中忍1人が対処すべき数でも相手でもない。
 
 しかし、カカシが目にしたイルカは1人ではなかった。

 もう1人のイルカがいる。

「……分身? 違うな」

 分身ならばまったく同じ姿となるものだが、もう1人のイルカはそうではない。
 鏡に映った姿のように額当てのマークやクナイホルダーの位置が反転していた。

 そして2人のイルカが敵を取り囲み、打撃を加える独特の体術にカカシは見覚えがある。

 自分の師を補佐していた夫婦の忍が2人1組で使っていたのを1度だけ見たことがあった。

「あれは、《比翼連理》か?」

 当時はあの技の内に守られ、自分の周囲で互いを庇うように優雅に飛び交う姿を憧憬を持って眺めた記憶がある。
 最高のツーマンセルの姿が、子供だったカカシの目に映っていた。

 それを中忍のイルカが1人で使っている。

 折り重なる倒木という不安定な足場を物ともせず、しかも技の破壊力が格段に違う。
 ただの打撃だというのに、一撃で敵の動きが止まる。
 飛び込みの勢いが加わった死角からの打ち込みだからか、それとも相手を殺す明確な意思を持っての攻撃だからか。
 
 
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