カカイル

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「ええ。里にいたら、ナルトに会ってしまいますからね」

 それは、かつてカカシのとった逃げ道。

 里にいては、九尾を封印した子供に、なにかしてしまいそうで。

 頭では、そんなことをしても何も変わらないと分かっていて。
 けれど、どうしても気持ちの整理をつけられずに、里にいなくていい道を選んだ。

 カカシにはそれだけの能力があったから。

 けれど、まだ忍にすらなっていない子供に、そんな選択肢はない。
 イルカにあったのは、自分の心を2つに裂いて、都合の悪いほうを覆い隠すだけ。

 その選択が今、イルカを苦しめている。

 誰よりも憎んでいる気持ちを抱えたまま、全く別の顔で愛しさを育んできた結果だ。

「オレはイルカ先生でいてやりたいんです。せめて、アイツの前でぐらいは……」

 カカシはこの一言に希望を見出す。

 やはりイルカはイルカなのだ。
 憎いだけではない。

 この12年間で誰よりもイルカ自身がナルトへの愛しさも育んできたのだから。

 考えれば、暗部への入隊もナルトとの接触を避け、傷つけることのないようにというイルカの愛情ではないのか。
 そしていつかまた、イルカとナルトは仲良く笑い合える日がくるかもしれない。

 今の自分とナルトのように。

「だったら、大丈夫じゃないですか、これまで通りでも……」

「いつかナルトに会ったうみのイルカが、オレじゃなかったら……」

 そういう可能性は否定できない。

 それにカカシと同じ道を行くということは、ここまでくるのに失った以上の物を、イルカも失うことになるのだ。
 失うものなど、もはや自分自身ぐらいしかもたないイルカなのに。

 だから、その言葉の先を、カカシは聞きたくなかった。

「必ずナルトを守ってやってください」

 カカシは戦慄する。

 ナルトを守る。
 あの、暗部クラスの能力を持ったイルカから。

 そんな方法は、1つしか思い浮かばない。

「……例え、どんなことになっても、あなたを信じています……」

───イルカを殺して、ナルトを守れ

 イルカはそう言ったのだ。


 


───イルカを殺して、ナルトを生かせ

 そう言い残し、カカシの前からイルカが姿を消してから、既に3日が経とうとしている。
 
 カカシはその間、なんとかもう一度イルカと話し合う時間を取ろうと奔走した。
 が、自身の任務もこなしながらでは、どうしても適わなかった。

 だが噂でだけ──イルカの行方を求め、右往左往するカカシを憐れに思った上忍仲間が色々と手を尽くしてくれたお陰で──その消息を辿ることはできる。

 イルカは今、中忍1人に与えられることのないS級任務へ出ていた。
 そしてその成功・帰還と同時に暗部への入隊と里外任務への着任が決まっているという。

 ずいぶんと慌しいのは、茶の国の任務で里を空けていたナルトたち7班の帰還予定が近付いていたからだった。

 里は、ナルトの帰還前にイルカを里から出すつもりでいる。

 万が一、ナルトがイルカの不在を騒ぎ立てても、言いくるめるのは簡単だ。
 長期任務で里にいない、たまたまお前が里にいない時期に帰ってきてすれ違ったんだと、全員が口を揃えるだろう。

 今更一つ秘密が増えるぐらい、なんでもない。
 12年もうずまく憎悪を腹に抱えたまま、本人に真実を言わないでいるよりは楽なものだ。

 イルカのことなど、数年で忘れるか、話題にしなくなる。

 そう、誰もがタカを括っている。
 
 
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