カカイル

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かくれみ



「へーぇ。アイツにそんな厄介な事情があったなんてねーぇ」

 あたしゃ全っ然、気付かなかったよ。

「それで?」

 カカシの相談を聞き、5代目火影である綱手が発した感想は、恐ろしくドライだった。

「だからですね、分割した人格の統合、出来るんデショ?」

「きちんと診療してみなきゃ分かんないねー。だがね、カカシ」

 イルカの人格の心配をお前がする必要はあるのかい?

「……うっ」

 絶対、聞かれると思っていたことなのに、カカシは言葉に詰まる。

 聞かれるのが分かっていながら、なんと答えるべきかちっとも浮かばなかった。
 自分でも情けなさすぎて、3度ばかり綱手への相談を諦めようかと思ったぐらいだ。

「あの小僧絡みなのは分かる。でも、なんでお前が、あたしに相談に来るんだい?」

「ああー。イルカ先生はデスネ、とっくに覚悟決めちゃってんですよー」
 
 アイツのために、自分が死ぬ覚悟ー。

 あっけらかんと告げられる覚悟の有りどころに、綱手は美しい眉をひそめる。
 だが口調は変えずに、相槌だけをうつ。

「ほう。で?」

「……オレは……オレは、イルカ先生に生きてて欲しいダケです……」

 決まり悪そうに、ばりばりと左手で自分の頭を掻きながらカカシはぼそぼそと話す。

 それは綱手の知る、才能ばっかりの生意気な小僧の口調であった。

「……ナルトにとって、イルカ先生ってのは、特別なんだよ……。オレにとっての、先生──4代目、いいや、それ以上かな……」

 綱手も里に落ち着いてからナルトのこれまでの扱いと、イルカとの関わりは耳にしていた。

 12年の人生で、この里で最初の、たった1人の理解者。

 カカシと4代目火影のことは、綱手自身の耳目で知っていた。
 戦うことしか教えられなかった子供を、感情豊かな人間に育てた経緯を。

 どちらも、その存在の大きさは、綱手だからこそ分かる。

「だから、ナルトからイルカ先生を取り上げるべきじゃない……。そうなったら、オレの時以上にやっかいだ……。この里を支える忍の殆ど、そして3代目の願いでもあるんです」
 
 みんな、イルカ先生には、笑っていて欲しいんです。

「アノネ、綱手様。知ってます?」

「なんだい、しまりのない顔しくさって」

「あの人、里のアイドルさんなんですよー」

 ぬけぬけと言ってのけるカカシに綱手は毒気を抜かれた。

 傍らで話の行方を探っていたシズネまで、トントンを放り出してずっこけている。

「あんな万年中忍がっ、あいどるっ!? っかーっ、世も末だねぇ!」

「時代は威圧系より、癒し系を求めてマスから

 癒し系とはイルカを指しての評であり、威圧系とはまた別の人物に向けた言葉である。
 それを咎められぬうちにさっさと流して、カカシは続ける。

「オレたちが、もーうぼろぼろんなって任務から帰ってくるデショ。ヘロヘロの字で報告書書き上げて、受付所に持っていくとあの人がいるんです。それで、ご無事でとか、お疲れさまですとか、にっこり笑ってくれる。それでやーっと、里に帰ってきたなーって気になるんですよ」

 他にも。

「オレがノンビリ昼寝なんかしてるとね。木ノ葉丸くんとか、ナルトとか、イタズラ小僧どもを、とんでもないバカ声で怒鳴ってるあの人の声が聞こえんです」
 
 
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