カカイル
□MISSING LINK
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促され、カカシが立ち上がる。
夕闇に映える白い面に隠されていても、イルカが忌々しげな顔をしていると、想像がついた。
敢えてカカシも、そういう言い方をしていたし。
同時に、山の中腹から爆発音が聞こえ、振動が響いてくる。
先行していた部隊が鉱山の入り口を爆破、崩落させたのだろう。
しばらく待つと、集落のほうでも人の騒ぐ声が聞こえ始める。
もうすぐ、ここにも追われた村人が逃げてくるはずだ。
「ああ、来ますね」
「大人が1人と、……子供が3人、いや4人ですか……」
イルカの言葉通り、背負い、抱え、手をひいて4人の子供を連れた女──というにもまだ若い娘が、集落を振り返りながら駆けてくる。
あの集落で暮らす者たちが仕事をする間、子守りをしていた者だろう。
その行く手を、2人の暗部が阻む。
黒い髪と、銀の髪を、宵闇になびかせて。
「ひっ……きっ、あっああっ……」
突然の妨害者に足を止め、その正体も分からずに慄く娘。
悲鳴を上げる前に、もうイルカが忍刀を抜き打っていた。
ごろりと背後の子供2人が転がる。
娘の抱えていた幼な子が火の着いたように泣き声を上げるが、身を翻したイルカの一撃でそれも途切れた。
たった2度、行き違っただけで、5人の子供をこともなげにイルカは屠る。
その後も、命からがら逃げ出してきた村人たちを、イルカは1人残らず殺しつづけた。
一瞬のためらいもなく忍刀をひらめかす度、命が消えていく。
肉の塊が噴出す血潮に染まりもせず、イルカは次の獲物を待って佇んでいる。
炎上する集落から上がる炎と黒煙と燃える火を映す夕空を背景に。
黒き、死の遣いが降り立ったようだ。
すぐ後ろで眺めながら、カカシは呟く。
「すごいね、イルカせんせえ」
「……やめてもらえませんか、その呼び方……」
カカシの揶揄としかとれない賞賛に、イルカは苛立ったような声を返した。
「なんで? イルカ先生はイルカ先生デショ?」
「私は、アナタの知っているうみのイルカではありませんっ」
「なんで?」
問い返され、黙ったのはイルカだった。
「……あのさ、先生。前に、聞いたデショ?」
何故、自分をうみのイルカだと認めないのか。
「だってねー、オレより誰より、アナタ自身が認めてないじゃない?」
自分が、うみのイルカだって。
「……それはっ……だって……」
「アカデミーで子供ら怒鳴りつけたり、受付所で笑顔で出迎えてくれるアナタもさー」
こうして、とカカシは右腕をひらめかせる。
投げた手裏剣の軌道──イルカの脇の茂みから、一度うめき声が漏れて途絶えた。
「任務でなんのためらいもなく、人を殺せるアナタも一緒なんだって……」
「……ち、がう……」
「1人の、うみのイルカって人間なんだって、アナタが認めてないから」
「違うっ! 私は、私、はっ……」
面の上から、苦しげに額を押さえ、イルカはうめく。
忍刀を握り締めた右手を差し上げて、カカシに向けた。
けれど、構えてのことではない。
どこか、すがるような、助けを求めるようにも見えた。
「……私が……うみのイルカであっては、いけないんです……」
それは、究極的な自己否定。
「……イルカはしがない、中忍で……子供たちに慕われていて……里の誰よりも、ナルトを案じていて……」
これまでは、ナルトという存在によって抑えられていた、心の片割れ。
そして誰にも知られず、認められずにきた、うみのイルカの側面。
「……こんな、こんなことは、出来ない人間でしょう? ……だから、こんな……力が、心が……私にあっては、ならない、んですよ……」
それが、カカシによって解き放たれた結果が、今なのだ。
「……だ、から……私が、オレでいる……うちに……」
「消えてしまうつもりですか?」
カカシの言葉は、真っ直ぐにイルカへ向けられていた。
2人にではなく、たった1人に。
「……いいえ、消してしまうんです」
けれど、強い意思を込めた声は、確かに、イルカのもの。
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]
WRITE:2004/11/14
UP DATE:2004/11/14(PC)
2009/01/29(mobile)