カカイル

□MISSING LINK
22ページ/45ページ



MISSING LINK

いたみとなみだ



 自分の肩から、カカシの手が落ちていこうとするのを、とっさにイルカは受け止めていた。

 その手に自分の面の留め紐が絡んでいるのに気付く。

 いつの間にと、半ば呆れながらも、その早業には感心してしまう。

「……先生、オレの面も、外してよ…」

 ねだるような声で乞われ、カカシの右顔を覆う面を背中へ落としてやった。

 抱きあってでもいるかように、支えあって立っているせいで、互いの顔が近い。

「……あー、なんか……久しぶりに見た……イルカ先生の顔……」

 安心しきった子供のように無邪気な笑顔になって、カカシが身体を預けてくる。

「イルカ先生……」

 頬が摺り寄せられ、カカシの吐いた血がイルカの首元や肩口を汚す。

「……やっと、会えた」

 カカシの血だけではない。

 そこいら中に血と死肉の匂いがしていた。

 イルカが手を下した、幾つもの死骸。
 
 その中で、息の弱っていくカカシを抱きしめている自分。

 その姿がこれまでは想像でしかなかった──ナルトに手を下す己に重なる。

 いつか来るだろう現実の、幻想。

 何人もの同胞──教え子たちすらもこの手に掛けて、あの子供へ凶悪な憎しみの目と刃を向けるのだ。

 歓喜と慙愧に苛まれながら、きっと最後にはナルトを殺してしまう。

───……こんな風に、オレは……アイツを……

「イルカ先生っ!」

 身体に絡まる腕を解き、イルカはどこかへ駆け出そうとした。

 その右腕をカカシは強く捕らえなおす。

 もう足がついていかないのか、引きずられて膝をつき、イルカに縋る格好になっても放さない。

「逃げないで」

「だってオレはっ」

「……自分から、逃げないで……」

 血の滲むイルカの胸に顔を埋めて、カカシは願いを込めて言い募る。

「アナタは……オレみたいなバカ、やらないで……」

「カカシさん……」

「……オレも逃げたんだ、アイツから……アイツを認めてやれない、自分から……」

 逃げ込んだ先で色んなものをなくし、さんざん後悔したことをカカシは偽らなかった。
 
 更にそこから──生きることからも、逃げ出そうとしたことも。

「……だけど、そんなオレを、救ってくれたのはアナタだ……」

 カカシが逃げ出した里で、ナルトは迫害され続けた。

 3代目火影も庇護はしてくれていたが、里長の立場もあって、あまり積極的に関わることが出来なかったと聞いている。

 それなのにただ1人、イルカだけが普通の子供として厳しく教育した。

 欲得ずくの思惑など、入り込む余地もない愛情も持って。
 結果、ナルトも天性の朗らかさを失わずに育ったのだろう。

「……ナルトと、イルカ先生が……思い出させて……くれたんだ……」

 人は、生きていく。
 悲しいことも、辛いことも乗り越えて。
 幸せになるために。

 それをカカシに教えた師は、もはやない。

 せっかくの教えも、意味を解せぬまま忘れようとしていた。
 けれど、ある時にナルトとイルカの交流の様子を伝え聞いた。

 そして忘れかけていたことを思い出し、理解したのだ。
 2人の存在と師の思い出が、戦場を駆けるカカシに希望を与えてくれた。

「……だからね、イルカ先生」

 だからカカシは、上忍師となったのだ。
 
 
次→
write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ