カカイル

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DOMINO THEORY

はなさくみち



 ゆっくりと意識が浮上していく。

───生きてた……

 そう、イルカは思った。
 だが、実感はない。

 いや、まだ生きているということが、もはや一時的なものでしかなくなっている。

 そんな気がした。
 つまり、終わりが近いと自覚している。

「目は覚めてるようだね」

 傍らから綱手の声が聞こえるが、目を開けるのも億劫で、そのまま聞き流す。

「率直に言うが、このままなら、じきにお前は死ぬ」

 存在しない傷からの出血が止まらないのだ。

 胸の表面だけではない。
 気道にも食道にも血は滲み出していて、イルカの呼吸を妨げている。

 今は肺まで挿管して、なんとか呼吸をしている状態だ。

 そんな傷はどんな名医にも、医療忍術のスペシャリストにも、治すことはできない。

「どうする?」

 問われても、イルカには答えようがない。
 
 このままでは死ぬ。
 けれど、死にたくはなかった。

 ふいに笑いがこみ上げてくる。

───オレは、少し前まで、死ぬつもりだったのにな……

 それがどうだ。
 今では死ぬことが恐ろしい。
 遺して逝く事が惜しいと思う者がいる。

 しかも思い浮かぶのは、あの子供ではないなんて。

 そんな自分に、笑いが止まらなくなる。

「……何、笑ってんだい? もう覚悟はできてたとか言ったら殺すよ」

 呼吸ができないから、笑い声などなかったのに、少し表情が歪むか、意識がそう動いたのを気取られたのだろう。

 だが、不機嫌そうな綱手の脅しすらもおかしい。
 常ならば、声を立てて笑っているところだ。

(覚悟はしています)

 微かに唇を動かせば、綱手が意思を読み取ってくれる。

(でも、死ぬつもりではありません)

「そりゃあ都合のいい覚悟だね」

 死ぬ覚悟ができていると言ったら、本当に綱手は息の根を止めてくれていただろう。

 死んでしまえば楽なのは、全てが終わることは分かっている。

 けれど、まだ終わるつもりはない。

 約束をしたのだ。
 
(どんな姿でも生きていく覚悟をしています)

 カカシと一緒に、ずっと生きていくと。

「よく、分かった。まず、これ以上の出血を防いで、チャクラと体力を回復……いや、維持を第一に治療していくよ」

 すぐに今後の治療方針を打ち出され、イルカは苦笑する。

 綱手の殺してやるという脅しは、ただイルカの意思を確認しただけだったのだ。
 いや、それを望めば見殺しにしてくれただろうが。

 それでも、もしイルカに生きる意思が少しでもあれば、綱手は出来る限りのことをするつもりでいてくれたのだ。

「そして、鏡像分身を診断後、治療する」

(分身体を治療ですか?)

「ああ。だから、印を組んで術を発動できるチャクラと、治療に耐えられる体力が必要になる」

 治療中は術を発動したまま──つまり、術者が覚醒していなければならない。
 どんなに辛くとも、気を失うことも、麻酔を使うこともできないというワケだ。

(だったら、今すぐにでも)

 イルカには分かっている。

 もう出血を防ぎ、これ以上の消耗を防ぐ手段はない。

 時間が経てば経つほど、自分は弱って、死に近付いていくのだ。

 一刻の猶予もない。
 
 
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