カカイル

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 また、印などの詳細をまとめておくようにとも告げられた。

 そして、かつての教え子たちの動向についても知られされた。

 聞かされた子供たちのことを考えている時、病室の入り口に懐かしい気配を感じた。

 その人を確認しようと身を起こすのと同時に、ずっと聞きたかった声が、イルカを呼ぶ。

「イルカ先生……」

 カカシだった。

 どこか憔悴して、所在無さげに立っている。

「カカシさん……」

「ごめんなさいっ!」

 いつも曲がったままの背を伸ばし、見事に直角な最敬礼でカカシは謝罪を始めた。

「ごめんなさい、イルカ先生。オレが見境なく鏡像分身に雷切なんかかましたせいだって聞きました。あの分身が特殊な術だって気付いてたのに、普通の分身と同じように扱ったから……」

「いいんです。きちんと治療もしないで、任務先で倒れたのは私のせいなんですから。どうか頭を上げてください」

「……え? あの、イルカ、先生……だよね?」

 改まった口調に、怪訝そうにカカシは顔を上げた。

「そうですよ。カカシさん」

 ニコリと意図的に微笑んでやれば、ワザとそういう口調を使ったのだとカカシも気付く。
 
「オレの身体のことはもう気にしないでください。じきに任務にも復帰できるそうですから……」

 それよりも、とイルカは口ごもる。

 カカシはずっと戦場を駆けていたのだろう。
 サンダルと足、白いハズのサポーターは泥と血にまみれている。

 きっと見えていない部分にも、傷はあるはずだ。
 それにチャクラもずいぶん消耗しているように見える。

「カカシさんこそ、お疲れでしょう」

 せめて座ってください。

 そう、傍らの椅子に座るよう促す。

「ああ、それとも、座っている時間もありませんか?」

「いいえ、大丈夫です……」

 ずりずりとイルカの近くへ椅子を寄せてから、カカシが座った。

「じゃあ、改めて……。お帰りなさい、カカシさん。無事に戻ってきてくださって、嬉しいです」

 頭を下げるのはまだ身体が辛いので、普段の受付の5割増くらいに微笑んでみせる。

「……ただいまデス、イルカ先生……」

「それから、長期任務も、お疲れさまでした」

 その言葉はイルカとカカシを最初に繋いだ接点がもはやないことを意味していた。

「……もう、みんな知っているんですね…」

「はい。綱手様から聞きました」
 
 今、サスケとナルトはこの里にはいない。

 カカシの指導してきた下忍7班は、ないのだ。

「正直、堪えます。オレが、もっとちゃんと……」

「カカシさん」

 飄々とした風貌や言動で誤解されがちだが、カカシは責任感が強過ぎる。
 いや、自分で全て背負い込もうとし、どこまでも自分を責めつづけるらしい。

 イルカは綱手からそう聞いたし、なんとなくそういう気質を感じてもいた。

「オレは元担任ですけど、いつまでもアイツラは生徒です。オレもいつまでもアイツラの先生のつもりでいるんですけどね」

 意外にもさっぱりとした表情で語り始めたイルカを、怪訝そうにカカシは見つめる。

「先生としては、オレのが長いですからね。卒業生を送るのは初めてでしょう? カカシ先生は」

 そんなカカシの様子に、にやりといたずらっ子のような満面の笑みをイルカは見せた。

 自分を慰めてくれようとしているのだと、カカシも気付く。

 あの手の掛かる教え子たちがいなくなって、一番淋しいのが自分たち2人なのだと。

「泣いてもいいですよ」

 穏やかな表情に戻って、ぼつりとこぼれたイルカの言葉に、必要以上にカカシは動揺した。
 
 
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