カカイル
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1 ─── あなたと、「いってらっしゃい、イルカ先生」
自分を送り出してくれる人がいるのは、いつ以来だったろう。
そんなことを考えながら、イルカはカカシの病室を後にした。
扉を締めたとたんに全ての気配を消していたのは、忍としての習い性。
けれど、そのまま動けずにいたのは──離れがたかったのは、自身の気持ちだった。
これまではアカデミーでも任務でも、送り出す側だったイルカ。
こうして任務に出るたび、誰かに背を向ける瞬間に、送られる気持ちをも思い知る。
そして、自分が2つの顔を持って生きていることも。
「それでもオレは、アナタを……」
弱くなりそうな気持ちを押し切って、立ち去ろうとした耳に優しい声が聞こえた。
「アナタの手を、決して離したりしませんから」
病室で1人、語りかけるカカシの言葉。
それが誰に向けれられたものか、イルカは分かっている。
「ずっと、繋いでいます」
その言葉通り、いまだ右腕にはあの時カカシに掴まれた痕があった。
自身の腕に残されたカカシの思いに唇を寄せて、イルカは心で呟く。
───行ってきます、カカシさん……
そして顔を上げ、気配も足音も立てずに立ち去った。
任務に着くのだと、思ったとたんにイルカの意識は切り替わる。
アカデミーのイルカ先生でも、受付の中忍でもなく、一介の忍のそれに。
集合場所には既に3人の忍が待っていた。
今回の隊長となる上忍の猿飛アスマと、イルカとも顔見知りの中忍が2人。
「よお、イルカ。遅かったな」
「申し訳ありません。アスマさん」
「ああ、気にすんな」
カカシに比べりゃ可愛いもんさ。
そう言ってアスマは盛大に煙を吐き出した。
まるで、今まで一緒にいたんだろうと言われたようで、一瞬イルカは視線を反らす。
その一瞬の仕草が、らしくないと自分でも思った。
更にアスマにも指摘される。
「なに照れてやがる。さて、揃ったところででかけるぜ。イルカ、お前が先頭だ」
「……はい」
「で、オマエらは両翼に、オレがケツにつく。で、お前らから言っておきたいことは?」
部下の顔を見渡すアスマに、イルカが一歩進み出た。
さっき一瞬見せた表情とは違う、別の意識で動いている。
「よろしいでしょうか?」
「おう、なんだ?」
「……アスマさんは、ご存知かもしれませんが……」
そう前置いてイルカは続ける。
「私の術の1つが禁術扱いとなってしまって、今回から使うことができません。復帰したばかりですので、とっさの場合判断に時間がかかる可能性があります」
「そうだったなあ……ま、オレはオメエさん実力を買ってんだ。禁術なしでもやれんだろってな」
「はい。ご期待に添えるよう全力を尽くします」
「よし。行こうか」
アスマの声にうなずき、イルカは地を蹴った。
向かう先は里の西の小さな集落。
以前はなかった獣による被害が急増しているため、捕獲と駆除が依頼されていた。
話によれば、農作物が荒らされるだけでなく、近頃は人に襲い掛かるようになったらしい。
次→write by kaeruco。
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