カカイル

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 その集落に住む猟師だけでは手におえず、木ノ葉隠れの里に依頼がきたのだ。

 しかし、森を駆け抜けながらイルカは思いを馳せる。

───野生動物による被害だけなら、あの術は必要ない……

 けれどとっさの時、もしも忍との戦闘があった場合、使わずに済むだろうか。

 ただ野生動物が餌を求めて人里に現れているだけなら、問題はない。

 だが、それが忍に操られた獣だったら話が変わってくる。
 時期的に、木ノ葉隠れの里の戦力を探る者もあって当然だろう。

 その時は、確実に戦闘がある。

 綱手によって禁術とされた《鏡像分身の術》は、イルカが独自に編み出したものだった。

 術者と同等の能力を持った分身体を呼び出せるのはいい。
 だがチャクラは総量の半分を消費するし、術者自身の姿を映す媒体も必要だった。
 その上、分身体が負った傷は術を解いた後、術者もダメージを被る。

 カカシによって分身体に致命傷を負わされてはじめて、イルカも気付いたのだ。
 この術が恐ろしく危険な術であると。
 
 だから綱手に使用の禁止を命じられて以来、イルカは他の術だけでの戦闘をイメージし、様々なパターンでのシミュレーションを重ねてきた。

 けれど、絶対はない。

 イルカ1人、隊から分断されて上手の忍数人に囲まれた時は、使ってしまうかもしれない。

───それでも、何があっても、生きて帰らないと……

 約束をしたのだ。カカシと。

 そのために、自分を待つ人のところへ帰るのだ。


 


 だが結局、色々と考えたイルカの気苦労をよそに、任務は無事に終了した。

 集落を襲っていたのは冬眠を前に食料を探していた熊が数頭。
 他に猿やイノシシもいたが、どれも普通の野生動物であった。

 捕らえた動物たちは処理され、住人たちのこの冬の食料や毛皮となる。
 食用にならないものも、見世物としての価値はあるから遠い町へ売られるらしい。

 熊を処理する直前のアスマの複雑な表情はちょっとした見物であったけれど、とにかくイルカはほっとしていた。

 これで、カカシの元へ帰ることができる。

 そう思ったとたんに、意識が切り替わった。
 
───……なんで……

 これまで任務中に意識の切り替わりはなかっただけに、イルカは動揺した。

 里の内と外で2つの人格を使い分けてきた。
 しかし記憶や知識は常に同一のもので、主導権を渡した後でも一方の言動は知覚できていた。

 それに2人のイルカの違いはナルトに関わる部分だけで、それ以外の人物の前ではあまり違いはでなかったらしい。

 ただもう一方のしていることを目の当たりにし、そして誰よりもナルトに関わってきたから余計に2つの人格ははっきりと分かれてしまった。

 そして、ナルトに関わる人物が増えるほどに、イルカは不安定になっていったのだ。

 しかもイルカの分裂に決定的な一言発したのはカカシ。
 そのカカシのお陰でまた、イルカは心の安定を取り戻したばかり。

 それが、カカシのことを思ったとたんに、意識が入れ替わった。

 敵の抹殺に容赦のない忍のイルカから、命を奪うことに躊躇いを抱くイルカ先生へ。

 任務前にアスマにからかわれた一瞬、意識が入れ替わったように感じた。

───……まさか、要因対象が、変わった?……

 そう思い至り、イルカは戦慄する。
 


 木ノ葉の忍が任務中にカカシの名でも聞くことは少なくない。

 それにこの先、カカシと共に任務に着くことだって考えられる。
 そんな時に、もしも戦闘中に意識交替が起これば、命に関わるはずだ。

───そんな……そんなことになったら……

 イルカは忍としてはやっていけない。

 否応なく、カカシとは相容れない道を行かねばならなくなる。

 ずっと、このままなら。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2004/11/20
UP DATE:2004/11/20(PC)
   2009/11/07(mobile)

 
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