カカイル

□MISSING LINK
36ページ/45ページ



「……んっ……」

 息苦しくて呼気を求めると、開いた唇を軽く舐めた舌が滑り込んでくる。

「……ふっ、ん……」

 浅く、口の中をまさぐられ、息が鼻に抜けて甘い声に聞こえた。

 そんな自分の声や、音に煽られて口付けは徐々に深くなっていく。

 強く自分が求めれらていると分かる、こんなキスをされたのは初めてだった。

 けれど、理性を失う一歩手前でイルカの右手はカカシの咽喉の中央を軽く押す。

「こっふ……せんせぇ、ヒッドォイよー」

 軽く咳をして呼吸を整えながら、カカシの顔が少しだけ離れた。

「すみません。なんか、このままだとなしくずしに及んでしまいそうだったので」

「あー、そのつもりだった……んですけどー」

「だから、止めたんです」

 悪びれもせずに言いぬけるカカシに鮮やかに笑って、イルカは部屋に入っていく。

「適当に荷物降ろして座ってください。お茶でも入れますから」

 机の傍に背負っていた荷を下ろし、台所へ向かった。

 とは言っても、支給の宿舎は入ってすぐに寝台と机があり、横手に申し訳程度の水回りがあるだけだ。
 
 ヤカンをすすいで水を張り、火にかけたところでカカシの声がした。

「なんか、思ってたより殺風景なんですね」

「ちょっと前に、引き払うつもりで整理しましたから」

「……そう、でしたね」

 暗部に入隊して長期の里外任務に就くはずだったイルカを、カカシが引きとめた。

 文字通り、命がけで。

 それきりカカシは黙ってしまった。

 荷物を置いたらしい音は聞いた。
 続いてしばらく、カカシはごそごそと何か物色していた様子だが、じきにおとなしくなる。
 どこかへ座ったかして、落ち着いたのだろう。

 イルカもあえてそちらを見ずに急須と茶葉、2人分の湯飲みを用意する。

 あの時、1歩どころか半歩間違えていたら、2人とも死んでいたかもしれない。

 そんな考えに背筋を寒くしながら、ここしばらく使っていなかった茶器を洗った。
 水の冷たさやガスの臭いと炎の熱気さえも、今生きていることを確認する手段のように感じる。

 カカシと2人で生きているということを。

 そしてこれからも、こうやって生きていくのかと問われている気がした。

 不安がないと言えば、嘘になる。
 
 忍という生き方は、死と隣り合わせの生活だ。
 いつ、どちらが命を落としても、何の不思議もない。

 きっと、死んでしまえば何も残らない。
 いや、カカシならば名は残るだろう。

 けれど、それだけだ。

 イルカとカカシの関係では、思い出すらも残せない可能性だってある。

───それでも、カカシさんはオレを選んだんだ……

 だからと言って、全てを委ねるつもりはイルカにはない。

───だって、オレもカカシさんを選んだ

 共に、手を取り合って、生きる相手として。

 その決断を後悔したくない。

───……何が起こっても、大丈夫だ

 イルカの考えが落ち着く頃に、ヤカンの湯も沸いた。


 


「お茶、入りましたよ」

 そう言ってイルカが部屋に戻ると、カカシはベッドの端に座って半ば空になっている棚を見つめていた。

 足元に置いた荷の上に手甲もベストも脱いで放ってある。
 額宛も外しているようだったし、口布はさっきイルカが引き下ろしたままだった。

「どうぞ。熱いですから気をつけて」

「ありがとうございます」
 
 
次→
write by kaeruco。
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ