カカイル

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ほしのないよる



 もう日暮れが近い。

 イルカの部屋はすでに明かりが必要なほど暗く、ただ向かいの家の窓ガラスに反射した残照が壁に映っている。

 その強い光に染まった壁を背にカカシが額を──イルカはまだ額宛てもしたままだったけれど、触れ合わせて、吐息混じりに囁いてきた。

「抱いても、いい?」

「……埃まみれですよ。オレも、アナタも」

「スイマセン。でも……」

 嫌だとは言っていないイルカに気付き、カカシは強く抱きこんでくる。

「……先に、シャワー借りますね」

「どうぞ」

 イルカの言葉で踏ん切りをつけるように、カカシは身を離して立ち上がった。

「場所は、湯の出し方とかも、わかりますよね。タオルは扉の横の棚にありますから」

「ええ、はい。たぶん、だいじょーうぶデス。ありがとーございマス」

 アンダーシャツと下に着込んでいた帷子をほとんど一瞬で脱ぎ捨て、慌て気味にカカシは浴室へ姿を消す。
 
 しばらくして、勢いよく水音がしだした。

 まだ冷たいだろうに、カカシは湯に変わるのも待たずにシャワーを浴びているのだ。

───でも、こういう時は、そうしたくもなる……かな……

 緊張しているのだ。
 2人とも。

 イルカは脱ぎ捨てられた衣類をまとめてカカシの荷物の上に置き、自分も額当てを外してベストを脱いだ。

 髪も結い紐を解き、簡単に櫛を入れてみる。
 髪についていた落ち葉の欠片が、櫛の目に引っかかり、落ちてきた。
 任務先で、森の中に埋伏していた時のものだろう。

 そう思った。
 途端に、意識が切り替わる。

───里で、この意識になってはダメだ……

 そう念じても、イルカは替われない。


 


「イルカ先生?」

 怪訝そうなカカシの声が、部屋の反対側で聞こえる。

「どうしたの?」

 不用意には、近づけないのだろう。
 いくら里で上位の実力を誇る上忍とは言え、完全な丸腰では。

「……カカシ、さん……今は……」

「大丈夫だよ、イルカ先生……」

 ゆっくりと一歩一歩を確かめるように、カカシは歩み寄った。
 
 寝台の端に背を向けて座るイルカに。

「触っても、へーき?」

 ためらいと何がしかの決意を持ってうなずいたイルカの正面に屈んで、カカシが見上げてくる。

「大丈夫だから」

 カカシの手がイルカの膝を包み、ゆっくりと太ももを撫で、腰を抱いた。

「イルカ先生は、ちゃんとここにいるよ」

「カカシさん……オレ、は……」

「アナタは、オレが大好きなうみのイルカなんだよ」

 膝の間にまだ濡れた裸の身体を割り込ませて、カカシはイルカを抱きしめる。

「どんなアナタでも大好きだから」

 その言葉に、イルカの緊張が少し緩んだようだった。

 カカシは伸び上がり、まだ俯いたままのイルカに軽く口付ける。

「このまま、しちゃおっか」

 カカシは片腕で背を支えながら、イルカの上体に覆い被さるようにして寝台へ押し倒した。

 解いたままの髪が広がり、それまで隠していたイルカの表情をあらわにする。

「泣いていいですよ」

「オレは、そんな顔、していますか?」

「ええ」

 優しく頬を、まぶたを、額を撫でながら、カカシは口付けを深くしていく。

「……でも、やめませんけーどね」
 
 
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