カカイル

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「アンタもさ、イルカ先生のこと万年中忍って侮ってたデショ」

「いえ、あの……」

 口ごもるが、図星だったようだ。

「中忍になって3年って聞いたけど……、じゃあさー」

 実際、つい最近までカカシもそう思っていた。

「あと3年同じような任務を続けて、生き延びられる自信ある?」

 けれど中忍であることすら──万年と言われる程に長く無事に──生き延びることが困難な生き方を、自分たちがしていると忘れてしまった者が、イルカをそう言うのだ。

「階級と実力は比例しないモンだ。オレたちは、里が使いやすい立場に置かれてるだけなんだし」

 だからカカシは6歳で中忍にされ、今は上忍となっている。

「上しか見られないヤツは、下にいた方が使いやすい」

 お前は下忍のままだった方が良かったと含ませ、カカシはその男から離れた。

 夜の闇に互いの姿が消えていく。

 そして、その先をイルカが走っている。

 カカシは見えぬイルカの背を思い、追った。


 


 夜が明けきる直前に、カカシの隊も里の周囲を巡り終え、その夜の哨戒は終了した。
 
 愚痴るアスマと、やたらと暑苦しいガイへ報告の義務を押し付け、解散後もカカシとイルカはその場に残る。

 約束どおり、話をするために。

 他に誰もいなくなるまで待って、カカシはようやく口火を切った。

「ね、イルカ先生は?」

「その前に、よろしいでしょうか?」

「ナニ?」

「……何故、私をうみのイルカだと、認めて下さらないのですか?」

「何故って……」

 イルカ先生じゃないから。

 言い掛けて、カカシは躊躇した。

 どちらが本当のイルカの顔なのかを、カカシは知らない。

 けれど今更気付いても、もう遅い。

「……オレの知ってる、イルカ先生じゃーないから、かな」

 ぼつりと、正直に答えるしかなかった。

「……あなたも、なんですね……」

「………」

「……あなたも、私が消えればいい、と……」

 答えられなくなってしまったカカシに、感情のないイルカの声を受け止めるのは辛い。

「そう、思っていたんですか? カカシさんも」

 その言葉にカカシが顔をあげると、もう夜は明けていた。

 朝日に照らされて立つのは、あれだけ話し合いたいと思った、うみのイルカ。
 
 それなのにもう、名を呼ぶ以外に、何も言えなくなってしまっていた。

「……イルカ先生……」

「でもね、カカシさん……」

「……イルカ、先生ぇ」

「オレのほうが、消えるんですよ……」

 だって、前に言ったでしょう。

「2人目だと……」

「イルカ先生っ!」

 諦めたように鮮やかに微笑むイルカを、カカシは抱きしめていた。

「それでも……、それでも、オレはっ!」

「……カカシさん……」

「オレはアナタがっ!」

 腕に力を込め、決して逃がさぬようにカカシはイルカを抱きしめる。

「……アナタが、いなくなるのは、ヤです……」

 肩口に顔を埋め、耳元に囁くようにこぼれた言葉は涙に濡れていた。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2004/11/05
UP DATE:2004/11/05(PC)
   2009/01/28(mobile)
 
 
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