カカイル

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 促され、カカシが立ち上がる。

 夕闇に映える白い面に隠されていても、イルカが忌々しげな顔をしていると、想像がついた。

 敢えてカカシも、そういう言い方をしていたし。

 同時に、山の中腹から爆発音が聞こえ、振動が響いてくる。
 先行していた部隊が鉱山の入り口を爆破、崩落させたのだろう。

 しばらく待つと、集落のほうでも人の騒ぐ声が聞こえ始める。

 もうすぐ、ここにも追われた村人が逃げてくるはずだ。

「ああ、来ますね」

「大人が1人と、……子供が3人、いや4人ですか……」

 イルカの言葉通り、背負い、抱え、手をひいて4人の子供を連れた女──というにもまだ若い娘が、集落を振り返りながら駆けてくる。
 あの集落で暮らす者たちが仕事をする間、子守りをしていた者だろう。

 その行く手を、2人の暗部が阻む。
 黒い髪と、銀の髪を、宵闇になびかせて。

「ひっ……きっ、あっああっ……」

 突然の妨害者に足を止め、その正体も分からずに慄く娘。

 悲鳴を上げる前に、もうイルカが忍刀を抜き打っていた。

 ごろりと背後の子供2人が転がる。
 
 娘の抱えていた幼な子が火の着いたように泣き声を上げるが、身を翻したイルカの一撃でそれも途切れた。

 たった2度、行き違っただけで、5人の子供をこともなげにイルカは屠る。

 その後も、命からがら逃げ出してきた村人たちを、イルカは1人残らず殺しつづけた。

 一瞬のためらいもなく忍刀をひらめかす度、命が消えていく。
 肉の塊が噴出す血潮に染まりもせず、イルカは次の獲物を待って佇んでいる。

 炎上する集落から上がる炎と黒煙と燃える火を映す夕空を背景に。
 黒き、死の遣いが降り立ったようだ。

 すぐ後ろで眺めながら、カカシは呟く。

「すごいね、イルカせんせえ」

「……やめてもらえませんか、その呼び方……」

 カカシの揶揄としかとれない賞賛に、イルカは苛立ったような声を返した。

「なんで? イルカ先生はイルカ先生デショ?」

「私は、アナタの知っているうみのイルカではありませんっ」

「なんで?」

 問い返され、黙ったのはイルカだった。

「……あのさ、先生。前に、聞いたデショ?」

 何故、自分をうみのイルカだと認めないのか。
 
「だってねー、オレより誰より、アナタ自身が認めてないじゃない?」

 自分が、うみのイルカだって。

「……それはっ……だって……」

「アカデミーで子供ら怒鳴りつけたり、受付所で笑顔で出迎えてくれるアナタもさー」

 こうして、とカカシは右腕をひらめかせる。

 投げた手裏剣の軌道──イルカの脇の茂みから、一度うめき声が漏れて途絶えた。

「任務でなんのためらいもなく、人を殺せるアナタも一緒なんだって……」

「……ち、がう……」

「1人の、うみのイルカって人間なんだって、アナタが認めてないから」

「違うっ! 私は、私、はっ……」

 面の上から、苦しげに額を押さえ、イルカはうめく。

 忍刀を握り締めた右手を差し上げて、カカシに向けた。
 けれど、構えてのことではない。

 どこか、すがるような、助けを求めるようにも見えた。

「……私が……うみのイルカであっては、いけないんです……」

 それは、究極的な自己否定。

「……イルカはしがない、中忍で……子供たちに慕われていて……里の誰よりも、ナルトを案じていて……」

 これまでは、ナルトという存在によって抑えられていた、心の片割れ。
 
 そして誰にも知られず、認められずにきた、うみのイルカの側面。

「……こんな、こんなことは、出来ない人間でしょう? ……だから、こんな……力が、心が……私にあっては、ならない、んですよ……」

 それが、カカシによって解き放たれた結果が、今なのだ。

「……だ、から……私が、オレでいる……うちに……」

「消えてしまうつもりですか?」

 カカシの言葉は、真っ直ぐにイルカへ向けられていた。

 2人にではなく、たった1人に。

「……いいえ、消してしまうんです」

 けれど、強い意思を込めた声は、確かに、イルカのもの。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2004/11/14
UP DATE:2004/11/14(PC)
   2009/01/29(mobile)

 
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