カカイル

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 カカシは身構える。

《竜飛双体・アギト》

 2人のイルカが別方向から、似たタイミングで飛び込んでくる。

 スピードのある重い一撃を受ければ、一度で足が止まるのは分かっている。
 交わさなければ、と思う前にカカシの身体は動いていた。

 鏡像分身のイルカに向けて、飛び掛るように。

「「甘い」」

 しかし、それは互いに残像分身。

 イルカの本体はカカシの影分身を、鏡像分身は水分身を打ち破っていた。

 カカシ自身は、術の軌道から外れたところにうずくまっている。

「「流石ですね」」

 イルカとカカシ、互いに同じお言葉を口にした。

「《竜飛双体》から抜けた人間は初めてです」

「それは、光栄」

「ですがこれは、どうされますか?」

 2人のイルカが、互いの背後を守るように構える。

 立ち上がったカカシに、イルカは襲い掛かった。

《竜飛双体・クウガ》

 それは、カカシが見たことのない、これまでの竜飛双体とも比翼連理とも違う動き。
 2人のイルカが入れ替わりながら、カカシへ向かってくる。

 それだけでなく、どちらかは残像分身をも使っていた。
 向かってくる気配は5つ。
 
 どこから、どのタイミングで攻撃がくるのか、見当もつかない。

───クソッ! なんでこんな強いんだよ、この人はっ!

 けれど、最終的な狙いは、1つだと知っている。

 カカシは印を切り、右手にチャクラを集中していく。

《雷切》

 正面からか、背後からか、イルカは必ず心臓への一撃を止めとしていた。

 ならばその一瞬に、カカシは賭ける。

───……だいぶ、分の悪い賭けだが……、綱手サマよりゃ、マシ、デショ

 カカシは静かに、その刹那を待つ。

 向かってくる気配は5つ。
 うち3つは残像。

 1つは本体。
 そして鏡像分身。

───狙いは……ここだっ!

「……ぐっ!」

「……くぅっ!」

 振り向き様に繰り出した《雷切》──カカシの右腕は、イルカの胸を貫いていた。
 驚愕と衝撃に震えるイルカ──その面は、鏡に映った像のように反転している。

 カカシの左腕は、自分の胸を撃ったイルカの右腕を捕らえていた。

「……イルカ先生、つーかまえたっ」

 にこやかに言うカカシの顔から、見る見る血の気が引いてゆく。


 

 
 鏡像分身が消え、イルカの胸に血が滲んできていた。
 どうやら分身が受けたダメージの一部が術を解除した後、術者にも返るらしい。

 それでもイルカは、崩れそうなカカシを支えて立っていた。


「……どうし、て……」

「……だって、イルカ先生が、言ったじゃないですか……」

 カカシは最初から、イルカ本体を捕らえることだけ考えていた。

 流石に鏡像分身の一撃は凌いだが、残像分身からの攻撃は避けずに、敢えて受けた。
 足には浅いが無数の傷が刻まれ、血に濡れてたようになっている。

 そして本体の攻撃も──急所だけは絶妙に外し、自身の胸で受け止めた。

 顔の半ばを覆っていた口布を引き下げて血の固まりを吐き出し、カカシは微笑む。

「……ぐっふっ! ね、言った、デショ……」

 血に濡れたカカシの微笑は優しく、凄絶なものだった。

「……例え、どんなことになっても、オレを、信じるって……」

 それはイルカが、カカシに全てを託した言葉。
 けれど、こんな結末を望んでいたのではない。

「……イルカ、せんせぇ……」

 イルカの右腕を掴むカカシの左手から急速に力が失われていく。
 
 けれどカカシは右腕でイルカの肩を引き寄せ、自分の胸に抱きこんだ。

「……オレも、アナタを、信じてます……」

 オレだけ、じゃなく、みんながね。

「……アナタは、ちゃんと……ここに、いますって……」

 そんなカカシの声に答える言葉を探せず、ただイルカは彼を支える力を強くする。

 そしてまるで、何かを象徴するように、イルカの面が落ちていった。

 
【続く】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2004/11/15
UP DATE:2004/11/15(PC)
   2009/01/29(mobile)

 
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