カカイル
□MISSING LINK
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「オレも本気だって言ってるんです」
その鮮やかな微笑は、どちらのイルカのものだったろう。
結局、イルカは暗部へは入らず、中忍のまま元の任務へ戻ることとなった。
カカシも体調が回復次第、次の任務へ入る。
互いに今回の件で、5代目火影の綱手から嫌味とも揶揄ともとれる説教をされていた。
しかし、特に目立った懲罰はない。
先に任務先で私闘をする理由を告げ、それを前提に内容と人員を選んだし、イルカは暗部に所属しなかったことになっていた。
だから、あれは最初からなかったことになるのだろう。
けれど、そんな話をしていた時に、イルカはぽつりとこぼした。
何もなかったワケじゃないんですよ、と。
「オレ、降格されてるんです」
「え? じゃあ、先生、下忍ですか?」
「中忍ですよ」
「……分かるように言ってください」
「あの日、上忍に昇格されてたんです。綱手様の一存で」
「そーなんですか?」
「ええ。それで、任務先での私闘を理由に1日で降格されて、減俸もされてます」
まあ、これまでと階級も収入も変わらないんですけど。
「気分としては複雑ですし、何よりオレの減俸分がどこへ行くのか考えると……」
そう言って額を押さえたイルカの痛みが、何故かカカシにも伝わった。
「……それって、オレもですよね…」
「降格はないでしょうが、減俸はばっさりいかれるでしょうね」
「……うっわーぁ」
カカシは思い切り頭を抱えた。
3ヶ月、いや半年は持っていかれるような気がする。
綱手の博打の元手に……。
「……オレ、暮らしていけるかなー」
「そうなっても、オレが面倒見ますよ。オレのせいでもありますから」
「そーしてくれると嬉しいデス。が、言い方が気に入りません」
せめて、こー言ってください。
「一緒に暮らしましょう」
カカシの言葉に、イルカはうなずかなかった。
立ち上がり、いつもの柔らかな笑顔を見せる。
「この任務から帰ったら、お返事しますね」
「無事の帰還と、いいお返事をお待ちしてマス」
「行ってきます。カカシさん」
そう言ったイルカの顔は、1人の忍のもの。
「いってらっしゃい、イルカ先生」
これまで、受付所で何度か交わした言葉を──立場は変っていたが言い合って、イルカは病室を後にした。
隙のない足取りで、音もなく。
1人病室のベッドに寝転がり、カカシは思う。
安定はしているが、未だにイルカの精神は2つに分かれたままだった。
何かの拍子にまた、どちらかの人格へ傾く可能性も残っている。
けれど、それはもともと1つの人格で、今も根幹は一緒なのだと綱手は言う。
ただ、1番強い気持ちが特化され、強く表面化しているだけなのだと。
だから2つの人格に同じ気持ちがあることが自覚できれば、彼の中でも気持ちの折り合いがついて、元の人格に治まるはずだ。
それまで、長い時間が必要だろうが。
「それでもオレは、アナタを……」
さっきまでそこにいた人に向けて、カカシは語る。
「アナタの手を、決して離したりしませんから」
この先、何があっても。
「ずっと繋いでいます」
アナタもオレの手を、離さないでいてください。
「幸せに、生きていきましょうね。イルカ先生」
【了】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]
WRITE:2004/11/16
UP DATE:2004/11/16(PC)
2009/01/29(mobile)