カカイル

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「オレも本気だって言ってるんです」

 その鮮やかな微笑は、どちらのイルカのものだったろう。


 


 結局、イルカは暗部へは入らず、中忍のまま元の任務へ戻ることとなった。

 カカシも体調が回復次第、次の任務へ入る。

 互いに今回の件で、5代目火影の綱手から嫌味とも揶揄ともとれる説教をされていた。

 しかし、特に目立った懲罰はない。

 先に任務先で私闘をする理由を告げ、それを前提に内容と人員を選んだし、イルカは暗部に所属しなかったことになっていた。

 だから、あれは最初からなかったことになるのだろう。

 けれど、そんな話をしていた時に、イルカはぽつりとこぼした。

 何もなかったワケじゃないんですよ、と。

「オレ、降格されてるんです」

「え? じゃあ、先生、下忍ですか?」

「中忍ですよ」

「……分かるように言ってください」

「あの日、上忍に昇格されてたんです。綱手様の一存で」

「そーなんですか?」

「ええ。それで、任務先での私闘を理由に1日で降格されて、減俸もされてます」
 
 まあ、これまでと階級も収入も変わらないんですけど。

「気分としては複雑ですし、何よりオレの減俸分がどこへ行くのか考えると……」

 そう言って額を押さえたイルカの痛みが、何故かカカシにも伝わった。

「……それって、オレもですよね…」

「降格はないでしょうが、減俸はばっさりいかれるでしょうね」

「……うっわーぁ」

 カカシは思い切り頭を抱えた。

 3ヶ月、いや半年は持っていかれるような気がする。

 綱手の博打の元手に……。

「……オレ、暮らしていけるかなー」

「そうなっても、オレが面倒見ますよ。オレのせいでもありますから」

「そーしてくれると嬉しいデス。が、言い方が気に入りません」

 せめて、こー言ってください。

「一緒に暮らしましょう」

 カカシの言葉に、イルカはうなずかなかった。

 立ち上がり、いつもの柔らかな笑顔を見せる。

「この任務から帰ったら、お返事しますね」

「無事の帰還と、いいお返事をお待ちしてマス」

「行ってきます。カカシさん」

 そう言ったイルカの顔は、1人の忍のもの。

「いってらっしゃい、イルカ先生」
 
 これまで、受付所で何度か交わした言葉を──立場は変っていたが言い合って、イルカは病室を後にした。

 隙のない足取りで、音もなく。


 


 1人病室のベッドに寝転がり、カカシは思う。

 安定はしているが、未だにイルカの精神は2つに分かれたままだった。

 何かの拍子にまた、どちらかの人格へ傾く可能性も残っている。

 けれど、それはもともと1つの人格で、今も根幹は一緒なのだと綱手は言う。

 ただ、1番強い気持ちが特化され、強く表面化しているだけなのだと。

 だから2つの人格に同じ気持ちがあることが自覚できれば、彼の中でも気持ちの折り合いがついて、元の人格に治まるはずだ。

 それまで、長い時間が必要だろうが。

「それでもオレは、アナタを……」

 さっきまでそこにいた人に向けて、カカシは語る。

「アナタの手を、決して離したりしませんから」

 この先、何があっても。

「ずっと繋いでいます」

 アナタもオレの手を、離さないでいてください。

「幸せに、生きていきましょうね。イルカ先生」
 
 
【了】
‡蛙娘。@iscreamman‡
[http://id54.fm-p.jp/120/iscreamman/]

WRITE:2004/11/16
UP DATE:2004/11/16(PC)
   2009/01/29(mobile)

 
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